『アメリカ革命』 上村 剛 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第6章 帝国化と民主化の拡大 ― 一八〇〇年~一八四八年 (その2)
今日から「第6章 帝国化と民主化の拡大」“その2”である。“その1”では、アメリカ政治の転換点の一八〇〇年から南北戦争までを概観し、ルイジアナの購入と一八一二年戦争まで出会った。今日のところ“その2”では、スペインとの戦争とモンロー・ドクトリンなどが解説される。それでは読み始めよう。
スペインとの関係の変化とモンロー・ドクトリン
前回、“その1”は、主に英仏との関係であったが、それと同じくらい重要なものとしてスペインとの関係がある。
スペイン領だったフロリダの併合(ココ参照)は、その後もスペインとの確執を生み、第一次セミノール戦争(第一次フロリダ戦争)が勃発する。
一八一七年アメリカ軍は、先住民の村を襲撃する。先住民は敵対関係でないのに攻撃されたと非難するが、アメリカ軍は、フォート・ジャクソン条約(ココ参照)によって割譲された土地であるという言い分であった。これに対して先住民も反撃をする。アメリカ軍は、ジャクソンを派遣するが、彼はスペイン軍にも攻撃を行い、先住民の支援をしたイギリス人を二人処刑した。
これに対して、スペインやイギリスは強くアメリカを非難する。連邦議会でも、軍事顕現の踰越が問題になり、ジャクソンは非難されるが、多くはジャクソンを支持する。
スペインに対してモンローは、一時譲歩して撤退するが、改めて外交交渉をスペインに持ち掛けると、一八一九年にフロリダの買収に成功する。
このようにしてアメリカはイギリス、スペインと国際関係において対等な地位に立った。この流れは一つの外交スタンスに結実する。モンロー・ドクトリンである。(抜粋)
このころハイチの独立を契機に様々な植民地でヨーロッパからの独立運動がおこる。アメリカには、それを応援したいという思いと、ヨーロッパの列強に反感を買うこと、アメリカ内の奴隷に波及することの恐れがあった。
このとき、ヨーロッパの列強が独立介入するという噂が起こり、それを牽制して自国の利益にしようとしたイギリスが、共同で新大陸に介入するなと声明を出しましょう、とアメリカに持ち掛けてきた。これに対してジェファソンやマディソンといった政治家は、イギリスの要求をのむように主張した。しかしモンローはアダムズ国務長官の意見にしたがい、
イギリスを含め、ヨーロッパは新大陸に介入してくるな、と表明したのである。これが、モンロー・ドクトリンと呼ばれるものである。(抜粋)
このモンロー・ドクトリンは、アメリカの対外関係の転換を象徴するものとして理解されている。
西漸運動と先住民の迫害
ここまでは、徐々に欧州列強から外交的独立を果たすという、ストーリーであるが、これは表の半分に過ぎず、その裏には列強の影響力がなくなった西部に、先住民の土地を奪いながら進出していく「西漸運動」がある。この西漸運動を支えたのも、強い連邦国家と連邦憲法である。
この西漸運動は、かつての英国本土と植民地の関係を、連邦と州に再生産するという戦略をとったという理解が、近年注目されている。
先住民部族は土地を奪われ、追い詰められていく、彼らの対抗策としては、文明化政策を受け入れ、議会を作り、憲法を作ることだった。チェロキー族は憲法で自らを主権国家と宣言し、合衆国と対等な立場であるとアピールした。
しかし、ジャクソンが西漸運動を促進させたことで、土地所有の空白が生じた。そし白人と、黒人奴隷とが入植する。そしてそのころ、綿操り機が発明され、綿の加工スピードが飛躍的に高まる。そのためアメリカの重要産業の綿花栽培を支えるべく、新たな農地を求めて人々は西部に移動する。このように連邦全体の経済構造が構築されていったことには、イギリスの産業革命の影響もある。
著者は、この経済構造の形成は二つの点で重要な影響をおよぼしたとしている。
一つは、家族制度の再編成である。それまでは、貞操な妻、慎ましい娘というジェンダー・ローであったが、工場労働の担い手が求められ、女性が進出し夫に従属するのではなく、独立した人間として同じ立場を共にする女性が増えていった。
銀行制度の発展とバブル
そしてもう一つが銀行制度の発展である。
そのころ連邦政府により第二次合衆国銀行が設立され、また連邦各地に銀行が大量に設立された。そして綿花の輸出により投機が促進し、ある種のバブルとなり、のちにバブルがはじけて一気に下落した。このような状況は、連邦レベルで経済構造が形成された証である。
しかし、この連邦銀行は、州と連邦の間で争いになった。合衆国銀行ボルティモア支店のマカロックが州法に基づく課税を拒否し、裁判となる。
この裁判では、
- 連邦政府に合衆国銀行を設立する権力があるのか
- 州が連邦政府の制度に対して上位の権力があるか
について争われた。
そして連邦最高裁のジョン・マーシャル裁判長は、「合衆国銀行創設は必要かつ適切な連邦の政治的行為であり、また連邦の法が至高であり州の法律に優先されるため、州の法律にようって合衆国銀行に課税することは認められない」と判決を下した。連邦の勝利となった。
このように連邦最高裁判所は連邦憲法を広めに解釈することで連邦の権限を拡大しようとした。しかし州の権力を重視する南部や西部の人々はこれに反発して、連邦憲法を限定的に解釈しようとした。(抜粋)
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