(初出:2008-07-22)
中国の五大小説」(上) 井波律子 著
『西遊記』の巻 — 巨大な妖怪テーマパーク 七 巨大なテーマパークをめぐる旅 — フィクショナルな化け物たち
物語も六十回前後になると、パターンがはっきりとする。それは妖怪が出現して三蔵は危機におちいるが、神仏の助けをかりて退治したあと、妖怪の正体が判明するというものである。
このような予定調和の妖怪退治の話が延々とつづく形式は、テレビゲームのRPGと同じである。また『西遊記』は「ロードムービー(主人公が移動するとともに話が展開する映画)」と通じるところもある。
このような単調ともなりがちな予定調和の物語を楽しめるものにしているのは、山あり谷ありの複雑なファンタジックな世界が創り出されているからである。『西遊記』の世界は、天界から地獄まで巻き込む巨大なテーマパークであり、これほど大規模な虚構システムによって物語世界を作り出している長編小説は他に類がない。
『西遊記』に出てくる妖怪は総じて「生身の存在」としての雰囲気が希薄である。多種多様な妖怪が出てくるが実は個々のキャラクターは鮮明でなく読者の記憶にほとんどのこらない。これは、妖怪の特徴を「外的」な特徴(どんな妖術を使うか、どんな武器を持ってるか、出た立ち動き方等々)であらわしていているだけで、妖怪はロボットのような「内面」を持たない存在になっているからである。
外面優先という発想はまさに西遊記世界をおおっているのです。(抜粋)
また、五大小説では唯一「中国の外へ出ていく物語」であるという特徴もある。
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