(初出:2008-07-13)
「中国の五大小説」(上) 井波律子 著
『西遊記』の巻 — 巨大な妖怪テーマパーク 三 遅れてきた主役、三蔵法師 — 西天取経の旅へ
玄奘三蔵は、実在の人物である。歴史上の玄奘は国禁を犯して単身、天竺(インド)に向かい。インドで修行の後に長安に帰ってきた。足かけ17年の旅である。
『西遊記』の三蔵法師は、実在の玄奘と違い軟弱で、悟空の助けなしには到底天竺にたどりつけそうもない頼りない存在として描かれている。それは『三国志演義』の劉備と同じように、まわりが大活躍できるように意図的に頼りなく書かれているのである。
『西遊記』の三蔵法師は、見た目にも美しく、「十世にわたって戒を犯さず」(十回生まれ変わりを繰り返しても、一度も戒律を犯していない)の清らかで尊い存在である。そのためかえって、三蔵の肉を食らえば不老不死になると妖魔たちにつけ狙われることになる。
さて、猪八戒、沙悟浄、龍王そして孫悟空らは、みな天界で罪を犯して転生を経てきた存在である。西天取経の旅はその罪をそそぐ旅であると位置づけられている。
三蔵法師もこの点でむろん例外ではなく、自覚はないのですが、やはり前世で犯した罪をつぐなうべくこの旅にでたのです。じつは、三蔵は前世では「金蝉子」という釈迦如来の高弟だったのですが、釈迦如来の説法の最中、生意気な態度をとったことで罰を受け、下界に落とされ転生させられたのです。(抜粋)
長安に視察に来た観音菩薩は太宗が開催する大法会の壇主として、かつて釈迦如来の高弟であった玄奘が選ばれると、取経の旅にうってつけであると大喜びする。
観音菩薩は釈迦如来から託された金襴の袈裟と九環の錫杖がうまく玄奘の元にわたるようにしてから、大法会当日に玄奘の徳を見きわめるべく、参列した。そして玄奘に説法を仕掛け、亡者も救済できるのは天竺にある大乗の教えであると告げ、姿をあらわし雲に乗って飛んで行ってしまった。
かくして、玄奘が単身天竺に取経の旅に出る事になる。
『西遊記』において玄奘三蔵法師の登場は意外に遅く、それは『三国志演義』『水滸伝』などでも言える事である。これは、本格的に物がたりが動き始める前に「前おき」(まくら)を配するという語り物の慣例を踏襲したものである。
三蔵法師はようやく旅に出る者のすぐに妖魔につかまり、従者二人と馬はまたたくまに食べられてしまった。ここで太上老君にピンチを救われる。これ以降、三蔵がピンチとなり悟空などがピンチを救うというパターンが繰り返される。命拾いした三蔵が劉伯欽の好意にあずかり、そして山腹まで送ってくれた劉伯欽と別れるとすぐに、三蔵を待ちわびていた孫悟空と出会う事になる。
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