[再掲載]「無法の道化者、黒旋風李逵」(水滸伝)
井波 律子『中国の五大小説』(下)より

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(初出:2009-04-10 )

「中国の五大小説」(下) 井波律子 著

『水滸伝』の巻 — 一百八星、数珠繋ぎの物語 五 無法の道化者、黒旋風李逵 — 独龍岡戦争、魔法合戦

『水滸伝』におけるトリックスターといえば、魯智深、武松、李逵が挙げられる。彼らは破壊力抜群の存在であるが、安定したタイプの豪傑ではない。梁山泊の一員となっても、上からの命令に従う気などさらさらなく単独行動をする。軍団にはある意味役に立たない存在であるが、物語世界をかき乱し、活性化する役割を担う。

魯智深、武松が前半を代表するトリックスターであり、李逵が後半を代表するトリックスターである。魯智深と武松はすでに『水滸伝』成立以前に語り物の世界で独立した物語を持つ人気者のキャラクターであった。しかし、その話をむりやり『水滸伝』世界に当てはめたために話の前後がうまくつながらなかったりする事がある。また、梁山泊の世界が確立していくにつれ彼らの存在は浮いてしまう。魯智深、武松という前半を代表するトリックスターは長編小説化する水滸伝世界では中核から外れた存在でしか無い。

ところが、後半に大活躍するトリックスターである李逵は、最初から中心人物の宋江と密着した形で登場する。李逵は、宋江との関連性が格段に強いため、以後終幕まで、物語世界に波乱を巻き起こす役割を持ち続ける。

李逵は、その強烈な強さから時には壮絶な無差別大量殺人を行う。梁山泊と祝家荘しゅくかそう扈家荘こかそうとの戦闘(独龍岡戦争)においても、彼は大暴れをして、扈家荘側を皆殺しにする。また、残酷な一面もあり朱仝を梁山泊に入れるために、4歳児の子供までも簡単に殺してしまう。

しかし、李逵は残酷であると同時に喜劇的な要素をかねそなえた、大いなる道化でもある。

やたらに強いけれども、その反面、底ぬけに愚かで滑稽な李逵は、水滸伝世界きっての道化であり、トリックスターにほかなりません。

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