(初出:2009-04-08)
「中国の五大小説」(下) 井波律子 著
『水滸伝』の巻 — 一百八星、数珠繋ぎの物語 四 痛快無比、「梁山泊軍団」集結 — 江州へ殴りこみ
宋江は、すぐに梁山泊に合流せず、まず清風山に身を寄せる。ここで宋江が清風山に拉致された悪徳官僚である劉高の妻を温情から見逃したために、かえって窮地に落ち込んでしまう。宋江は青州軍司令官の「鎮三山」黄信に「小李広」花栄と共にとらえられてしまう。しかし、護送中に清風山の軍勢により助けられ、また青州軍総司令官の「霹靂火」秦明を生け捕りにする。
宋江は秦明に仲間入りを頼むが、朝廷に謀反はできないと断られてしまう。しかし、秦明が青州に帰還すると、「謀反人」の汚名を着せられ家族は処刑されていた。秦明は命からがら逃げて清風山に戻る。
宋江は秦明にこの一件の種あかしをしました。秦明が仲間入りを承知しないため、秦明と似た者に彼の装束を身につけさせて、青州城内に突入させ、狼藉をはたらかせて、秦明謀反の証拠をデッチ上げ、家族を処刑させたというのです。
秦明はこれを聞くと怒りが込み上げてきたが、宋江の説得で結局は仲間入りを承知した。
なんとも勝手な理屈というほかありません。この一件は、前章で述べたように、男どうしの結束を最優先し、その障害となるものを委細かまわず排除しようとする、梁山泊の倫理を極端な形であらわしたものです。それにしても、この事件はアブノーマルな後味の悪さが残ります。この計画を立てたのが宋江だというのも、宋江の一種、底知れない暗さを感じさせます。
やがて、この清風山に官軍が攻めてくるという情報が来ると、宋江の発案で全員が梁山泊に移動することになる。しかし、その時、宋江に父の死の知らせが来る。宋江は止める仲間を振り切り帰郷してしまう。
彼は、他人の家族は未練が残らないように、あっさりと殺しておきながら、自分の家族には未練たらたら、情を断ちきることができないのです。水滸伝世界ではこんな宋江を特別扱いし、むしろ「孝行者」として評価する気配がありますが、客観的にみれば、なんとも自分勝手で往生ぎわが悪いとしかいいようがありません。
しかし、宋江の父は死んでおらず、これは特赦により宋江の罪が軽くなる事を聞いた父が自首させようと一計を案じたものだった。宋江は父の勧めにより自首し特赦により減刑され後、江州に流刑になる。
犯罪者の烙印を押され、表社会から脱落したあとも、宋江はなおもこうして「表の倫理」にしがみつき、「まとも」に生きようとするのです。宋江が「まとも志向」にこだわりつづけることが、のちのち、まぎれもなく無法者の集団にほかならない、梁山泊軍の命運を大きく左右することになります。
獄中で宋江は監獄主任の「神行太保」戴宋、「黒旋風」李逵と出会う。宋江は獄中にあっても優遇され自由に監獄から出たり入ったりすることも許される。しかし、退屈しのぎに出かけた料理やで酔った勢いで壁に書いた詩のため、謀反の意図があるとの嫌疑をかけられて死刑囚の牢に入れられてしまう。
ここで立ち上がったのが梁山泊の一味で、宋江の死刑執行の時に一斉に飛び出し宋江を救いだす。宋江はここに及んでやっと梁山泊に合流することになった。
『水滸伝』の物語はこの江州騒動あたりで主要な登場人物が出そろい、これ以降は登場人物を有機的に関連づけて繋ぎあわせるのではなく、大規模な「戦争」を契機に大人数が軍団に合流するというパターンが増え、百八人の頭数をそろえていく。
四十人の豪傑がそろったところで話し合いにより梁山泊の次席が決まる。
- 晁蓋
- 宋江
- 呉用
- 公孫勝(魔術師)
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