新型コロナ対策はなぜ失敗したのか(その2)
湊 一樹『「モディ化」するインド』より

Reading Journal 2nd

『「モディ化」するインド』湊 一樹 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第5章 新型コロナ対策はなぜ失敗したのか(その2)

今日のところは、第5章「新型コロナ対策はなぜ失敗したのか」の“その2”である。前回“その1”は、インドの新型コロナ感染症への対応、突然行われた全土封鎖についてであった。今日のところ“その2”では、その全土封鎖における深刻な打撃について焦点を当てている。それでは読み始めよう。

全土封鎖による深刻な打撃

出稼ぎ労働者とその家族への対応

全土封鎖で、もっとも政府が迷走したのが、出稼ぎ労働者とその家族への対応である。ロックダウンにともなった経済活動の停止によって、出稼ぎ労働者は生活の糧を失い、親族が暮らす農村部に戻らざるを得なかった。

しかし全土封鎖に伴って政府が示した指針には、鉄道やバスの運行をすべて止めるというものであったため、各地で徒歩や自転車で移動する人の波が発生した。政府の当初に指針では、この出稼ぎ労働者が都市から農村への移動することを想定した対策が一切なく、モディ政権は、このような事態を想定していないもしくは過度に軽視していた可能性が高い

政府はこのような移動を厳しく制限し移動中の人たちを最寄りの避難所に収容するように各州政府に要請したが、実際には多くの人たちの移動が続いた。そして州政府の中には、各地で立ち往生している出稼ぎ労働者たちにバスを用意するなどの対策をするところも現れる。

モディ政権は、全土封鎖が行われてから一か月も経ってから、ようやく人々の移動を正式に許可した。そして、出稼ぎ労働者の帰還のためインド国鉄による特別列車が各地で運行された。

特別列車の運行によって、都市に取り残されていた出稼ぎ労働者とその家族の帰還が進んだのは確かだが、実際に乗車した人たちからは、車内環境や運行状況は無秩序なものだったとの声が数多く聞かれた。(抜粋)

車内は社会的な距離をとるのが不可能なほど込み合い、冷房のない車内で満足な水や食料もなくまるでカオスのようであった。運行状況も混乱し乗客は到着時間も知らされないまま、場合によっては数日間も閉じ込められた。そのため乗車中に亡くなる人が相次ぐ事態となった。

さらに、経済的に貧しい出稼ぎ労働者には特別列車に乗ることさえ容易ではなく、やはり徒歩や自転車で移動する人は絶えなかった。

この地元への帰還者の数は分析対象の条件をどう選ぶかにより「約五〇〇万人」から「最低でも三〇〇〇万人」まで大きな開きがあるが、少なくとも数百万人という単位の人々が短期間のうちに移動したことは間違いない。

全土封鎖による経済的打撃と不十分な経済対策

この全土封鎖によってインド経済は大きな打撃を受けた。GDPの成長率は大きく落ち込み、鉱工業生産指数の動きのも経済の打撃ははっきりと表れている。

そして、その後に主要な経済指標は、パンデミック前の水準まで「V字回復」をした。しかし著者は、それが経済全体にそのまま当てはまるかは疑問であるとしている(一章三節を参照)。実際に、研究機関による調査によると、多くの中小零細企業の売り上げが大幅な低下や一時休業を経験したり廃業に追い込まれた。

さらにセーフティーネットからこぼれた貧困層も、全土封鎖による経済活動の停止により大きな打撃を受けた。複数の調査により所得水準の低い階層の方が収入の減少が大きいことがわかっていて、経済の停止のよって経済格差が広がった。

このように厳しい封鎖措置により経済的に脆弱な貧困層は生存を脅かされた。そのため政府による経済対策は、重要な意味を持つはずだった。しかしインド政府の経済対策は危機的な経済状況に見合うものではなかった。政府の貧困層への経済支援や生活保護の取り組みは、迅速さが足りなかった。そして、規模をことさら強調するわりには、経済対策の実質的な規模は、それほど大きくなかった。さらに政策の有用性についてもおおきに疑問があるものであった。

インドの保護主義への傾倒

このコロナウィルス感染症の拡大によって、モディ政権の経済政策は保護主義へと傾倒していった。「経済改革の旗振り役」というイメージが強いモディ首相であるが、保護主義的な動きが着実に広がっている。インドの関税はアジアの主要国を大幅に上回り、輸入品に対するアンチダンピング措置の発動も非常に多くなっている。

つまり、それ以前からモディ政権のもとで進んでいた保護主義の流れが、パンデミックによって一気に勢いを増し、そのため顕在化したと捉えることができる。(抜粋)

新型ウィルス感染症の各愛が続くなか、モディ政権が打ち出したのが「自立したインド」というキャッチフレーズである。それは、輸入への依存を減らしながら、保護主義的政策によって国内製造業の振興と雇用創出を図ろうという狙いがあり、その後その狙いに沿った措置が矢継ぎ早に実施された

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