昔の主婦は聞き上手 / 自分のことは話さない
東山紘久 『プロカウンセラーの聞く技術』 より

Reading Journal 2nd

『プロカウンセラーの聞く技術』 東山紘久 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

7 昔の主婦は聞き上手

ここでは、昔の井戸端会議で行っていた主婦たちの会話を例にして、”前回”の「避雷針になる」で取り上げられたような、上手な“ぐち”の聞き方について説明している。

ぐちの上手な聞き方

井戸端会議で話されるぐちは、おもに悪口である。この悪口を第三者に言って直接関係させない知恵が働いている。それには、聞く側が自分に関係づけないで地面に流してしまう必要がある。自分と関係づけるような下手なぐちの聞き方をすると、聞く方がしんどくなってしまう。

悪口は精神の浄化作用なのです。自分と関係させずに言ったり、聞いたりできると自然の浄化作用が働きます。昔の主婦はこうしたことを体験的によく知っていたのだと思います。まさに主婦の知恵だったのです。(抜粋)

昔の主婦は自分と関係させるように相手に思わせて、実は自分とは関係のない話と聞いている。これが聞く極意の一つである。そして、あまり話を深いほうに進ませないようにしている。会話を始めた主婦の話がひととおり終わると、次の人がまた軽いぐち話をする。軽いぐち底には深刻な問題がある場合もあるが、それには触れずに、みんなが同じレベルでぐちを続ける。また、少し長いぐちを話す主婦がいると、それをさえぎらずに、相づちだけうっていて、聞き流す。このような知恵も使っている。

話を聞き流し、自分サイドに引きつけない、というのは大変な知恵です。この聞き方はプロのカウンセラーと同じようなテクニックを一部含んでいるのです。(抜粋)

プロのカウンセラーは、相談者の話と心を理解しようとする姿勢で自分の方に相談者の話を引き付けない聞き方をする。それは、相手を自分の話に引きつけると相手サイドで話を聞けなくなってしまうからである。かといって、相手のことを突き放して聞いてしまうと、相手は孤独になり、話せなくなる。

その点、昔の主婦の井戸端会議は、みんな同じたという地平に立ち、相手の話を聞きながら、相手に特有な事柄を聞き流しているという絶妙な聞き方なのです。(抜粋)

8 自分のことは話さない

自分ことは話さない

プロのカウンセラーは自分のことを話さない。それは、相手の話す時間を奪わないという意味がある。人間の感覚として話す時間は短く、聞く時間は長く感じる。そのため自分のことを話すと知らず知らずに長くなってしまう。

そして、自分の考えは自分にしか適用できないため、自分の経験談を話してもあまり相手の利益にならないことが多い。また、自分のことを話そうとした時点で、頭は話すモードになっていてカウンセラーのような聞き手の立場であれば、自分の仕事を放棄したことになる。

問題を抱えている人を相手にするときには、相手は話すことに臆病になっていますので、あなたは聞き手に徹する心がけが大切なのです。子どもや配偶者や身内や部下が悩んでいるときにも、聞き手モードからうっかり話し手モードにならないようにいましめておかなければ、悩みを聞いてやろうとするあなたの思いは役にたたないのです。そのためにも自分の話はしないことに越したことはありません。

「何も言ってくれないのですか」と言われるとき

新米のカウンセラーの場合に、「何も言ってくれないのですか」と詰問されることがあるが、これは、自分の話をするかどうかと関係なく、カウンセラーが自分を分かってくれないことにいら立っているからである。
普通の人がこのように言われるのは、話し手が身内かよほど親しい人に限られる。その場合は、あなたに何か言って欲しいのではなく、もっと親身になって関与してほしいのである。このような時には話し手との関係をもっと密にする必要がある。しかしもっと関与するのは、なかなか難しい。(このことには後で詳しく述べる)

カリスマ的になる危険性

プロのカウンセラーが自分のことを話さないもう一つの大きな理由は、自分の個人的な話で相手に直接影響を与えることを、極力避けたいと思うからである。カウンセリングのように心の作業につき合う人は、カリスマ的になりかねない

カウンセラーのカリスマ性が強いと、来談者はそこに引きつけられ、一見すると悩みが解決したように見えるのですが、それは相手と同一視した借りものの解決です。こうしたことは宗教でよく起こる現象です。宗教家、とくい教祖はカリスマ性が大きく、だからこそ魂がいやされるのですが、反面そのとりこになってしまうおそれがあります。(抜粋)

カウンセリングでも油断するとこのようなことが生じる危険性がある。

カウンセラーは相手の話を聞くことによって、話し手自らが洞察を得るようにしているのです。言い換えるなら、カウンセラーは相手の心を映す鏡になるように訓練されています。けっして相手の心に侵襲し、自分の個人的影響を与えてはいけないと教えられているのです。(抜粋)

自分の話を聞いてもらうことには、このような危険がある。通常はよほど訓練された聞き手でないとこのような状況にならないので、あまり危険性はないが、聞く側もこの点は注意しないと歪んだ人間関係になる。

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