『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
いのちを育む鳥の巣賛歌
世界中の様々な鳥の巣を収集し、各地で鳥の巣展を開いたり、鳥の巣の絵本を制作している鈴木まもるさんは、今や、鳥の巣の収集と研究にかけては、世界的にも右に出る人はいないと言ってもよいほどの存在になっている。(抜粋)
ここでは、鈴木まもるさんが描いた鳥の巣の絵本を3冊紹介している。
『ふしぎな鳥の巣』
まず一冊目は『ふしぎな鳥の巣』である。この本には柳田邦男が一番すごいと思った、東南アジアのキムネヨウヨウジャクという小鳥の巣がその製作過程と共に描かれている。
上下の長さが四〇センチくらいで、中央が妊婦のお腹のように大きく膨らんでいて、木の枝にぶら下がっている。膨らんだお腹の下は、やや細く長い筒状になっている(抜粋)
そして最下部の筒状の部分は、巣への入り口で外敵から絶対に見えず、かつ出入口と分からないようになっている。柳田は、この巣の繊細さとその技術の高さに舌を巻いている。
『ニワシドリのひみつ - 庭師鳥は芸術家』
二冊目は、『ニワシドリのひみつ - 庭師鳥は芸術家』である。ニワシドリは、直径二メートル、高さ一メートル程度の原始人の小屋のような造形物を作っている。そして、その”施設“の中には、色とりどりの花や葉っぱや種子類を、きれいに並べてある。これが美意識なのか迷彩のためなのか、不思議な光景である。
そして、この施設は巣ではなく、オスが一種の遊びで「あずまや」的なものを作っている。
『鳥の巣のいろいろ』
三冊目は『鳥の巣のいろいろ』である。柳田は、鈴木まもるさんの数々の鳥の巣の絵本の中で、図鑑的なこの絵本を勧めている。
関連図書:
鈴木まもる(作)『ふしぎな鳥の巣』、偕成社、2007年
鈴木まもる(作)『ニワシドリのひみつ - 庭師鳥は芸術家』、岩崎書店、2014年
鈴木まもる(作)『鳥の巣のいろいろ』、偕成社、2006年
雪の森はこころを静寂の世界に
忙しい仕事を片づけ、心静かなひとときを過ごすとき、柳田邦男はよく絵本を手に取る。そして、そういう時に手に取るのは、絵がしっかりと描かれていものであるとしている。
『ゆきのよあけ』
そんな絵本たちの中で不思議は魅力のあふれた絵本として『ゆきのよあけ』を紹介している。
きつねに襲われ、母うさぎからはぐれた子ウサギが、ひとり雪の巣穴に隠れている。真っ白な静寂の中、すこしずつきつねの匂いが迫ってくる。そしてきつねが飛びかかった一瞬前に子ウサギは飛び出し難を逃れる。しかし今度はフクロウが襲い掛かってくる。それもやっとのことで振り切り森に逃げ込む。子うさぎは、その後きつねがやわらかい雪で身動きがとれなくなる山頂まで逃げのびる。
あべさんの絵は、夜の森の不気味な気配、黒々とした木の枝がくねり、その遥か向こうに見える山々の朝の光にきらめく。アカゲラが木のドラムをたたき、小鳥たちが舞い、リスたちが銀世界を駆けめぐる。森の夜明けの歌を、躍動感をたぎらせて描き、その次の頁に、よろこびに満ちて立ち上がった野うさぎに子を大きく描いているので、読む者の胸にもいのちの躍動感がしょうじてくる。(抜粋)
『ちいさな あなたが ねむる夜』
もう一つ北国の静かな夜の物語をモチーフにした絵本として『ちいさな あなたが ねむる夜』がある。
この絵本は、『ジェーンとキツネとわたし』や『きょうは、おおかみ』の絵を描いたイザベル・アルスノーさんが絵を担当している。この絵本は、カナダの女性絵本作家ジーン・E・ベンジウォルさんが幼い男の子が眠る時間に、雪の埋もれた夜の森の情景を叙情誌風に詠んだ詩を、・アルスノーさんの絵が添えられている。そして、サガンの『悲しみよこんにちは』(新潮文庫)の翻訳でしられる河野万里子さんの訳文がとても美しい。
<北の国の しずかな夜 みどりと ピンクと オレンジいろの光が 空いちめんに ゆらめいて うつくしい音楽を奏でた。 わたしはそれでも かきとめたかったけれど 光のメロディーは うつろいやすく はかない。 でもそのリズムが あなたに届いていた。 ふかい ふかい ねむりのなかで やさしく おだかやかな寝息とともに ほら、あなたの胸は ちいさく上下している>(抜粋)
関連図書:
いまむらあしこ(文)、あべ弘士(絵)『ゆきのよあけ』、童心社、2012年
ジェーン・E・ペンジウォル(文)、イザベル・アルスノー(絵)、河野万里子(訳)『ちいさな あなたが ねむる夜』、西村書店、2017年
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