『文章の書き方』辰濃 和男著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
<平均遊具品>の巻 — 均 衡(2)
前節につづいてここでも文章の均衡を扱っている。
著者は、「均衡とはなにか」と改めて問うている。均衡を保つためには、一つの見方に固定せず、いろいろな角度から物事を見る必要がある。
均衡のとれた文章を書くためには、均衡のとれた見方を心がけることが大切で、均衡のとれた見方をするには、カメラを一ヵ所に固定せず、あちこち移動しましょう。(抜粋)
笠(りゅう)信太郎の『ものの見方について』は、均衡のすばらしさを説いている。笠は、第二次世界大戦後のイギリスで日本批判の議論のなかで、イギリスもその責任の一端があるという少数意見があることに驚き、少数意見、反対意見に寛容な社会はふところが深いと考えた。著者もアメリカで、ベトナム戦争反対の運動が公然と行われることを目の当たりにして同様な感慨を得た。
この本のお手本はイギリス人の考え方でした。ドイツのナチズム、日本の軍国主義を支える考え方を批判した上で、この本は均衡のすばらしさを説いたのです。(抜粋)
笠は、戦後の日本に必要なものは、このような少数意見、反対意見に寛容な社会であると考えた。そしてその反省がないとまた全体主義の熱狂に巻き込まれかねないと考えた。
ここでわざわざ「均衡(2)」の章を設けたのは、私たちのなかに、いちじるしく均衡を欠く心の傾きがあるのではないかと考えるからです。そういう心の傾きを見つめることは、自分の文章を見つめることでもあります。少なくとも私は自分にそう言い聞かせてきました。(抜粋)
この均衡感覚を磨くには、文章を書く訓練をするのが良いと著者は説く。すなわち、自分の文章が均衡を欠いていないか常に問い、単純に大勢に従うのではなく、様々な意見を吟味して、いろいろな角度から見る訓練をするのである。
そういう営みこそが、文章を磨くことになり、文章を磨くことこそが、日本人の均衡ぎらいをやわらげる自然治癒力になる、と私は思っています。(抜粋)
関連図書:笠信太郎(著)『改訂新版 ものの見方について』角川書店(角川ソフィア文庫) 2018
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