『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第7章 場とシステム―環境説(その4)
3 ほめればやる気がたかまるか
環境説の3つのトピックスとして「アメとムチ」(1節)、「競争」(2節)が解説された。3つ目は、「ほめ言葉」である。ここでは、ほめ言葉とモチベーションの関係、どのようなほめ言葉がよいほめ言葉か、さらにほめ言葉のマイナスの面ついて書かれている。
まず「ほめ言葉」はモチベーションを高める効果がある。ほめ言葉は、心理学では「言語報酬」と呼ばれ金銭報酬のようにやる気を高める要因となるからである。(ココ参照)。そして、ほめ言葉は、人と人とのコミュニケーションプロセスで生じるという特徴がある。
ほめ言葉は、自己効力や有能さの感覚を高めたり、ポジティブ感情を生じさせモチベーションを高めたりする。また、ほめ言葉が、フィードバックの役割を果たすことがモチベーションを高める事につながっている。
このように環境側が提供するフィードバックがモチベーションを強く規定し、パフォーマンスをも向上させるという事実については、本書でもしばしば確認してきたところである。(随伴性認知:第4章2節、習慣化:第6章2節など)。(抜粋)
そして、よいほめ言葉になる鍵は「フィードバック情報(含まれる意味情報)」の内容にある。ほめ言葉として「いいね」「よくできたね」と伝えることよりも「具体的に何がどうよいのかを本人に伝えること」が重要である。つまり、ほめることの本質は、「真価を認めそれを本人に伝えること」である。
このフィードバック情報には4つのタイプがある。
- 「随行性フィードバック」:行為自体やその結果に関する評価情報を提供する場合。それがポジティブ情報である場合は、「有能さの感覚」、「期待」を高めて、モチベーションが高まる。反対にネガティブ情報の場合は、修正を促す情報(方略フィードバック:後述)を合わせることで、期待や有能さの感覚を維持しモチベーションを高める可能性がある。
- 動機づけフィードバック:「君にはできるはずだ」という当人の能力に関する情報提供。それがポジティブなものであれば、他者からの説得力ある情報と受け止められ自己効力を高める可能性がある。
- 「帰属フィードバック」:特定の結果に対する原因(原因帰属)に関する情報提供(たとえば「あれだけ努力したから成功したんだね」というような声かけ)。他人によるこのような判断がフィードバック情報として伝えられるとモチベーションに影響することが分かっている。ここで、課題に失敗したなど遂行の結果がうまくいっていない場合は、当人にコントロールが不可能な要因(課題の困難さ、能力不足)よりもコントロールが可能な要因(努力不足)に原因帰属するようなフィードバック情報の方がモチベーションを促す可能性が高い。
- 方略フィードバック:成功や失敗の原因が方略にあると伝える帰属フィードバックの一種で、さらに適切な別のアプローチに関するアドバイスを提供。
よいフィードバックとは、何ができて、どこに改善の余地があり、どうすれば改善できるかといった情報が含まれていることなのだといえるだろう。
フィードバック情報は、すべてほめ言葉に含まれているとは限らない。ただ、優れたほめ言葉には良質のフィードバック情報が含まれていることだけは断言できよう。何がよかったのか具体的に伝えることで、ほめ言葉の潜在的な効力が発揮される。ほめ言葉は励ましのメッセージであると同時に、効果的なアドバイスでもあるのだ。(抜粋)
ここで著者は、ほめ言葉についてプラス面がある反面、やはりマイナス面もあるので注意が必要であるとしている。マイナス面としては、
- 人が「ほめ言葉」に満足して「これでよい」と過度に正当化してしまう
- ほめ言葉をもらうこと自体が目的化してしまう
- 人によってはほめ言葉をプレッシャーとして感じてしまう
などをあげている。
そして、最も留意する点として著者は次の2点を挙げている。まず1点目は、自尊心が関わる問題である。
自尊心はモチベーションと密接に関わる重要な要因であるが、自尊心をつけさせようとしてほめた場合、自尊心は欠乏欲求であるため自尊欲求を過剰に満たそうとして自己愛欲望まで肥大化し不適応に陥ってしまう場合がある。
自尊心を高めることだけを自己目的化するようなほめ方はむしろ有害なのである。(抜粋)
自尊心は、高めることを目標とするのではなく、一人ひとりの自尊心を保証することが重要である(ココ参照)。
ほめ言葉としての留意点の2点目は、「ほめる側の意図」の問題である。
人はもめ言葉の背後にある意図を敏感に察知する。そのためほめ言葉の裏にある意図、隠れたメッセージを察知すると、逆にそれが暗黙の圧力になり当人のやる気がさめてしまい、結果として逆効果である。
巷に宣伝される「ほめてやる気にさせる」というハウ・ツーは、ほめ言葉を「させる方法」として位置づけているようにみえて危うい。モチベーションを高める道具として、ほめ言葉を安易につかってはならないのである。(抜粋)
コメント