[再掲載]「『竹取物語』-伝承を乗り越えて」
鈴木健一 『知っている古文の知らない魅力』より

Reading Journal 1st

「知っている古文の知らない魅力」 鈴木健一 著 
[Reading Journal 1st:再掲載]
(初出:2006-06-16)

第五章 『竹取物語』-伝承を乗り越えて

第五章は竹取物語。
竹取物語は、源氏物語中で「物語の出で来はじめの祖」とされる、最古の物語である。しかし、最古の物語と行っても口承で伝えられている多くの古い伝承を受け継ぎ完成したものである。
まず、その冒頭は、以下。

今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつつ、よろづの事に使ひけり。名をば、さかきのみやつことなむいひける。その竹の中に、もと光る 竹なむ一筋ありける。あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光たり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。翁言ふやう、「我が、朝ごと 夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になり給ふべき人なめり」とて、手にうち入れて家へ持ちて来ぬ。おうなにあづけてやしなはす。うつくしきこと、かぎりなし。いと幼なければ、に入れてやしなふ。
竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけて後に竹取るに、節を隔てて、よごとに黄金こがねある竹を見つくること重なりぬ。翁、やうやう豊かになりゆく。

(今はもう昔になってしまったが、竹取の翁と呼ばれる者がいた。野山に分け入って竹を取ってはいろいろなことに使っていた。名を「さかきの造」といった。 翁の取ろうとする竹の中に、根元が光る竹が一本あった。不思議に思って、近寄って見ると、筒の中が光っている。その筒の中を見ると、三寸ほどの人がたいそうかわいい姿で座っている。翁が言うには、「私が、毎朝毎晩眼にする竹の中にいらっしゃるので、わかりました。私の子におなりになるはずの人のようで す。」と、手の中にいれて、家にもって帰った。妻のおうなにまかせて育てさせる。かわいいことは、この上ない。たいそう小さいので、籠に入れて育て る。
竹取の翁が竹を取る時、この子を見つけてから後に竹を取ると、節と節の間に黄金の入っている竹を見つけることが重なった。こうして、翁は、しだいに豊かになっていく。)(抜粋)

竹取物語に取り込まれている伝承は、

  1. 「小さ子説話」
  2. 「天人女房説話」
  3. 「結婚難題譚」
  4. 「地名起源説話」

まず、1の「小さ子説話」は、異常なほど小さくして誕生した子どもは、神の子で普通でない能力をもち人々に幸福をもたらすという、伝承の型である。これは、かぐや姫のほかに一寸法師、指太郎、桃太郎、瓜子姫などがある。
また、そのような小さい子は空洞の器(神の乗り物)の中から誕生する。

神の子として、神の器に入った、異常に小さい子どもが誕生して、すばらしい能力を発揮し、まわりの人々に福をもたらす。そのような『小さ子説話』の型がこの『竹取物語』冒頭にも踏襲されているのです。

2.の「天人女房説話」の骨組みは以下のようである。

  • 天女が羽衣を脱ぎ、水浴しているところを、男が発見する。
  • 男が羽衣を隠してしまったため、天女は男の妻となる。
  • 天女が子を生む。天女は羽衣を発見し、天へ帰る。

竹取物語は、このような伝承の骨格を借りている。

次に、3.の「結婚難題譚」とは、親などが難題を持ち出しそれを克服することにより結婚を許されるというパターンである。
竹取物語では、かぐや姫自身が、多くの難題を持ち出す。

最後の、「地名起源説話」は、地名がどのような伝説に基づいているか解き明かそうとする型。
かぐや姫の最後の部分は、「帝は悲しみのあまり、かぐや姫が残した不死の薬を、天にもっとも近い山の山頂でやかせた。」の部分が、「富士」の起源とするもの。ただし、

「富士」の起源も、不死という音の響きが転じて富士になったという説と、薬を焼くため大勢の兵士が山を登ったため、「士に富む」意によって富士になったという説と、伝わる写本によって理由が異なっている。

竹取物語は、このように多くの伝承を取り込んでいるが、そこには伝承の型にない独自なものがある。その中で大きいのが、かぐや姫が人間の心をに目覚めるというものである。
かぐや姫は、最後に罪が許されて月の世界へ帰るが、それを喜ばずにむしろ悲しむ、

感情というものとは無縁の天上人が、地上世界での経験を経ることによって感情をもってしまったのです。
天人が天の羽衣を着せようとすると、かぐや姫は「しばし待て」と言います。この衣を着てしまうと人間としての感情や記憶はすべて失われてしまいます。着るのは仕方ないとしても、帝に手紙を書いておきたいと、考えたのでした。

竹取物語はその後、後代の物語に型として取り入れられています。その代表例が源氏物語である。

『源氏物語』の御報みのり・幻巻には、紫の上が死ぬ場面で、天界へもどっていくかぐや姫のイメージが重ね合わされます。御報の巻では、紫の上はかぐや姫の昇天と同じく八月十五日に火葬され、天へと昇って行きます。・・・中略・・・・ま た、幻巻では、光源氏が紫の上の手紙を焼きますが、これは、『竹取物語』の最後で帝が富士山の頂上で不死の薬とともに手紙を焼かせることを踏まえています。

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