[再掲載]「「悪女死すべし」、梁山泊の倫理とは」(水滸伝)
井波 律子『中国の五大小説』(下)より

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(初出:2009-04-06 )

「中国の五大小説」(下) 井波律子 著

『水滸伝』の巻 — 一百八星、数珠繋ぎの物語 三 「悪女死すべし」、梁山泊の倫理とは — 閻婆惜殺害、武松物語

宋江が梁山泊に入るきっかけは、悪女の閻婆惜を殺害したことによる。
この「悪女殺し」は水滸伝世界の倫理感を象徴した事件にほかならない。
『水滸伝』は基本的に女性を排除する物語である。

『水滸伝』に限らず語り物を母胎とした中国白話小説は、もともとプラトニックな「恋愛」など語られることはほとんどないのだが、水滸伝世界の女性観は過剰に潔癖であり、ほとんど女性嫌悪に近い。

水滸伝世界で重要な事は、男同士の絆で結ばれた「侠」の世界を強化する事であり、その弊害となる女性は徹底的に排除される。

『水滸伝』では、この倫理感を武松による「兄嫁殺し」を「閻婆惜殺し」のすぐ後におくことで強化している。

武松は、兄を殺した兄嫁の潘金蓮と不倫相手の西門慶を殺し、流刑となってしまう。またこの「兄嫁殺し」を潘金蓮と西門慶が死ななかったとして生まれたものが、『金瓶梅』の話となる。

また、暴れん坊の武松は、魯智深とともに水滸伝前半部におけるトリックスターの役割を担っている。

悪女殺しの後、宋江は梁山泊に武松は二龍山に逃げ込むことになる。

水滸伝世界の前半をゆさぶる二人の大トリックスター、魯智深と武松がこうしいてストレートに梁山泊に合流せず、いったん二龍山に独立した根拠地をもったということは、水滸伝世界の物語構造をみるにあたり、ひとつの重要なポイントにほかなりません。

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