徴兵制の導入 — 明治から満州事変まで
吉田 裕 『続・日本軍兵士』より

Reading Journal 2nd

『続・日本軍兵士』 吉田 裕 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

1 徴兵制の導入 — 忌避者と現役徴集率 第1章 明治から満州事変まで —兵士たちの「食」と体格

序章が終わり、今日から本編に入る。まずは「第1章 明治から満州事変まで」である。序章(”前半“、”後半“)では、日清戦争~アジア・太平洋戦争までを、全戦没者に対する戦病死者の割合という視点で辿った。その結果、疾病との戦いだった日清戦争いらい満州事変までは、軍事衛生、軍事医療の進歩のため戦病死者率が下がる。しかし、日中戦争、アジア・太平洋戦争と戦争が長期化し混迷化するにともない、それが日露戦争以前の水準まで後戻りしていることが解った。そして序章の最後に本書の目的が示さ、本編と繋がっている。

日清戦争以降の歴史をたどりながら、退行や後戻りの原因を具体的に明らかにするのが本書の目的である。(抜粋)

まず第1章では、明治から満州事変までを辿っていく。今日のところは、その第1節「徴兵制の導入」である。ここでは、日本に徴兵制が導入されたときの民衆の反発と「免役条項」とその廃止、徴兵制への忌避者について考察されている。それでは読み始めよう。

徴兵制の布告

徴兵の免役条項

日本政府は、一八七三年(明治六年)に「国民皆兵」の原則を掲げて徴兵令を発する。これにより満二〇歳に達した青年男子は、徴兵検査の受検が義務づけられる。

この徴兵検査は、入営する現役兵を選抜するための身体検査であるが、「国民皆兵」というが、当初は多くの「免役事項」を設けていた。免役対象となるものは、

  • 戸主とその相続人
  • 所定の学校の生徒
  • 代人料二七〇円を上納する者

であり、この代人料は、富裕層への優遇措置だった。

この免役条項は、「国民皆兵」の原則に反すると激しい批判にさらされ、次第に縮小し一八八九年に基本的には廃止された。

初期の日本陸海軍

初期の陸軍は、反政府反乱の鎮圧などを任務とした小規模な軍隊であった。そして、「富国強兵」が国是となるなか一八八八年の改編などで拡充され六万七〇〇〇名となる。

初期の海軍は、志願兵によって人員を充足したが、一八八七年から徴兵による充足も行った。一九〇四年の時点で徴兵一六〇〇名、志願兵三〇〇〇名の合計四六〇〇名であり、陸軍に比べて小ぶりな軍隊だった。

明治大正期の現役徴集率二〇%の実体

ここで著者は、当時の「現役徴集率はそれほど高くない」ことを指摘している。この現役徴集率とは、実際に現役兵として入営する若者が、同世代の壮丁(徴兵検査を受ける義務のある満二〇歳の男子)に占める割合を言う。

現役徴集率は、

  • 日清戦争前、一八九一(明治二四):五.七%
  • 日清・日露戦争後:二〇%前後
  • 大正時代末期(軍縮):一五.四%

のように推移している。

同世代の若者のなかで多いときで約二〇%の若者だけが、二年もしくは三年の間、兵営生活を送ることを余儀なくされるのだから、国民のなかに不公平感が生まれるのは、ある意味当然だった。(抜粋)

徴兵忌避の方法

ヨーロッパでは、徴兵制が引かれる前に封建諸侯の傭兵軍と市民革命の防衛にあたる国民軍の二つの歴史的段階をへた。しかし、日本ではこのような段階を経なかったため、軍隊の国民的基盤は当初はかなり脆弱だった。

そのため徴兵制が引かれると、農村では激しい一揆が起こる。そしてそれが鎮圧されると合法的な徴兵忌避が広がった。この合法的徴兵忌避として代表的なものは、戸主及び相続人の免役事項を利用した「徴兵養子」である。

そして、免役条項が廃止されると、非合法の徴兵忌避が横行する。代表的なものとして

  • 検査前に指を切断する
  • 絶食して体を衰弱させる
  • タバコのヤニを目にすりこんで眼病を装う
  • 醤油を大量に飲み塩分の過剰摂取により心臓病を装う
  • 逃亡して行方をくらます

などである。また徴兵を免れようとして神仏に祈願することも普通に行われた。

しかし、この徴兵忌避は、次第に減ってくる。それは、各府県や市町村での兵事行政が整備・拡充され、国家が国民の名を確実に捕捉できるようになったこと、また、学校教育や社会教育を通じて兵役が名誉ある義務であるという考え方が浸透したことなどの結果である。

沖縄の現実

「琉球処分」で強権的に日本本土に編入された沖縄県での徴兵令の施行は、本土より二五年のタイムラグがある。沖縄では標準語の普及が遅れたため言葉が通じないなど、軍隊生活の適応は、本土の人々以上の困難があった。徴兵令の施行に当たっては、清国への逃亡(「脱清」)や代理の者に検査を受けさせるなどの徴兵忌避者が続発した。

軍医の裁量権 — 高学歴者への配慮と同情

この徴兵令には「犠牲の不平等」「兵役負担の不平等」という問題もあった。徴兵検査を担当する軍医には、自分と同じ高学歴の徴兵検査受験者への配慮や同情があった。

徴兵検査では、身長や体重などを基準として身体的な「格付け」が行われるが、高等教育を受けた学生からは、現役兵として入営する可能性が高い甲種合格者を意図的に出さない行為がなされることがあった。

こうした行為が可能になるのは、軍医の側にある種の裁量権が認められていたからだろう。兵役検査では「筋骨薄弱」という曖昧な理由でその青年を丙種合格にすることが可能だった。(抜粋)

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