「土に生きる」(その1)
坂口哲啓『書簡で読み解く ゴッホ』より

Reading Journal 2nd

『書簡で読み解く ゴッホ――逆境を生きぬく力』 坂口哲啓 著  
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

第3章  土に生きる――ニューネン・アントウェルペン(前半)

恋愛の苦難を抜けて精力的にゴッホは画業に打ち込む。第3章は、父の赴任地ニューネンでの出来事。その後、アントウェルペンでの修行が描かれている。ニューネンでは、テオとの関係を、画家と画商の関係に変わり、「馬鈴薯を食べる人びと」などの農民を題材に絵を描いた。アントウェルペンでは、アカデミックは美術学校で学んでいる。そして、いよいよパリに旅立つ。


一八八三年、ゴッホは父親の新たな赴任地、ニューネンに帰った。大喧嘩をして出ていった息子を父は困惑しながらも迎え入れ、牧師館の洗濯小屋をアトリエとして使うことを許す。しかし、ゴッホに対する父や家族の眼は冷たく、手紙には「自分は毛むくじゃらのイヌ」くらいにしか思われていないと手紙に書き記している。そして、ゴッホはここで猛烈に絵の修業をする。彼の心の支えは、ミレーだった。

「ミレーはぼくに言う、<正しい生き方をするようにせよ>(せめてそう努めるのだ、そして裸の真理と取り組め)、そうすれば、<金を稼ぐ問題すらも何とか解決する、こうしてきみは不誠実ならずともすむだろう>。」(書簡347)(抜粋)

ゴッホは、テオにも複雑な感情を抱いていた。ゴッホは、「魂のレース」では、自分が断然優位としながらも、「物質のレース」では、弟に完全に負けている。

フィンセントの心のなかには、弟に対して、優越感と劣等感、尊大さと自己卑下、願望と失望、信頼と疑惑、愛情と憎悪等々の相反する感情が複雑に絡み合っているのである。(抜粋)

ゴッホは、自分が精魂込めて制作した作品を、テオがまったく売る努力をせずに放置していたことにいら立ちを覚え、テオに手紙(書簡358)を送った。

彼の言いたいことは、要するに、自分が毎月弟からもらっている金の意味づけということだ。テオからの仕送りが、無為徒食の兄を養うための<お情けのお金>なのか、それとも労働(画業)に対する<正当な報酬>なのか、どちらなのか、という問いかけである。(抜粋)

そして、ゴッホはテオに、毎月の仕送りは自分が描いた絵の報酬とすること、その代わりにテオが受け取った作品は、テオが自由に処分しても良いとする、提案をする。
ゴッホは、この提案によりテオの仕送りが<援助金>ではなく、画家の絵を画商が買い取った<代金>とし、テオと完全に対等な立場になろうとした。そして、テオは最終的にこの提案を受け入れる。

画家を志した四年目の一八八四年三月、フィンセントは、ずっともやもやしていた自分と弟との金銭関係を画商と画家としての対等の関係として明確にすることができた。(抜粋)

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