『作家の仕事部屋』 ジャン=ルイ・ド・ランビュール 編
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
ミッシェル・ビュトール – 人格の二重化の企て
ミッシェル・ビュトール(Michel Butor)は、ヌーヴォー・ロマンの代表的作家の一人である。
人格の二重化
仕事のやり方は複数あり、小説、エッセーなどのジャンルによって違う。それはいずれも”人格の二重化の企て“である。
エッセーの場合は、書く対象のテクストに取り憑かれなければならない。自分は一種の媒体になり、その私という媒体を通して著者が語り始めなければならない。小説の場合は、自分が作り出す第二の人格は《主人公》あるいは話者となる。この取り憑かれる状態なることは、絶対に予見できない。
エッセー、小説の書き方
エッセーに関しては、カードを取るという伝統的な方法は徹底的に排除している。その代わりに、テクストを時折重要な点に印をつけながら、徹底的に読み込む。この印をつける行為はカードのような不都合は起こらない。印のあるページを再度全部読む必要があるからである。そして、関連するもの以外は読まないことにしている。
小説の場合にも、ノートは作らずプランも立てることはない。ただ困難なときにちょっとした図式を書く程度である。
仕事をするのは依頼を受けた場合のみである。何カ月も時には何年も自分の中で成熟してきたある作品と取り組む決心をするには、外部からの求めが必要である。そして、一冊の書物を書きあげると、自分で書いたことをいっさい忘れてしまう。そのようにすると、同じ主題について無限に書くことができる。しかも同じことを繰り返すのではなく、逆に、ますます明確さを増す。
小説に関しては、それを書いていたのは今よりずっと時間的に余裕があったころであるが、そのころは、ひとつの小説によって提起された疑問が次の小説を生み出した。
書くという仕事を始めるのは、小説だと、その図式が完全に仕上げられたときであり、エッセーの場合は、何度もテクストを読み返し、すべてが朦朧となり何も考えられなくなったときである。
仕事はいつも書き直すことが出来る場合のみ行う。自分の書物の多くの頁は五十回タイプで打ち直される。そのような草稿の山がいつも机の上に散らかっている。
仕事をする環境
仕事をするためには厳格な規律が必要である。環境に関しては、できるだけ中性化された環境が必要である。何も視線を引きとめない真っ白な壁、音楽ももちろんダメ、本は手に届くところになくてはならないが、目立ってもいけない。そのような条件を整えてもその環境に慣れるには十日ほどかかる。時間については、夜も朝も仕事をしないので、執筆にあてられるのは午後の四時間か五時間である。
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