『日本仏教再入門』 末木 文美士 編著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第十章 社会活動する仏教 近代の仏教4(大谷栄一) (その3)
今日のところは、「第十章 社会活動する仏教」の“その3”である。これまで“その1”で、仏教の社会活動の二つのパターン及び明治期の仏教の社会活動、“その2”で大正期の仏教の社会活動が紹介された。
それを受けて今日のところ“その3”では、昭和初期から戦後、そして現代までの仏教の社会活動が概観される。それでは読み始めよう。
3.昭和前期から戦後、現代へ
昭和初期の仏教の社会活動
昭和初期の「社会サービス型」の活動
昭和初期も「社会サービス型」(ココ参照)の仏教社会事業が進展した。それを担ったのは伝統教団であった。そして社会活動は、仏教徒融資による救済活動から教団社会事業へ移り、昭和初期には、寺院社会事業へと移行する。
昭和になり、地域社会における寺院の社会資源としての重要性が再認識され、仏教社会事業の実施主体が末寺まで拡大した。
そして、日中戦争が勃発すると、戦時総動員体制が整備されていく中、社会事業は人的資源の保護育成が目的とされ、仏教界もその要請に応える。仏教社会事業による社会的サービス型の活動は、戦争協力に向かっていった。
アジア・太平洋戦争の開戦により、大日本仏教界は、神道・キリスト教の各連合かと共に「大日本戦時宗教報国会」を結成し、仏教団を含む宗教団体は戦時総動員体制のための国民教化活動に動員され、戦争遂行のための公的役割を担った。このような状況は日本の終戦までつづく。
昭和初期の「政治行動主義型」の活動
昭和初期の「政治主義型」の活動は、妹尾義郎(ココ参照)が率いた新興仏教青年同盟(新興仏青)が中心だった。新興仏青は社会サービス型の活動と政治行動主義型の活動の両方を行った。政治行動主義型の活動としては、「仏教無産政党」の計画(実現せず)、地方市議会選挙への出馬、町議員選挙への出馬、水平運動や労働運動への支援などがある。また満州事変以降になると、反戦・平和運動と反ファシズム活動を実践する。しかし、そうした活動は、政府当局から弾圧を受け、メンバーや関係者は検挙され組織は壊滅した。
戦後の仏教界の社会福祉と宗教者平和運動
戦後の「社会サービス型」の活動
戦後になると仏教界の社会活動は新たな展開を見せる。そして戦後も戦前と同じく「社会的サービス型」の活動が中心となる。
戦前は社会福祉制度が未発達だったため、仏教徒の社会活動は国家の福祉政策の補完的な役割を担っていたが、戦後になると福祉国家体制の整備により、仏教徒の社会部櫛活動のプレゼンス(存在感)は大きく低下した。
また戦後は政教分離の原則により、宗教と福祉の機能分化が徹底され、仏教教団の社会福祉は社会福祉法人の傘下となった。
仏教社会事業団体の再建がすすみ、昭和二五年には日本仏教社会事業協会が結成される。高度成長の中で様々な団体の組織化が行われた。しかし、戦後の社会福祉政策は措置(国家の管理・庇護のもとで各施設等へ国から補助金を分配する運営)により行われたため、政教分離が徹底され、宗教理念を中心に社会福祉施設を運営するのが難しくなった。
しかし、その事態は平成一二年(二〇〇〇年)の社会福祉基礎構造改革により大きく変化した。
社会福祉制度は国家管理・庇護による措置制度から、市民的契約にもとづく新しい社会福祉制度へと大きく転換した。(抜粋)
そして、民営化の推進により、ふたたび、宗教団体(仏教団体)が国や地域の福祉の担い手となる機運が生じた。
つまり、仏教徒や仏教教団のプレゼンスがふたたび高まる機会を迎えたのである。(抜粋)
戦後の「政治行動主義型」の活動
戦後の「政治行動主義型」の活動は、戦争協力への反省にもとづき、仏教徒による宗教者平和運動へ展開された。
宗教者平和運動協議会、京都仏教徒会議、原水爆禁止宗教者懇談会などの諸団体が結成された。そのメンバーには戦前の「政治行動主義型」の活動を牽引した新興仏教青年同盟のメンバーもおり、戦前と戦後の活動の連続性が確認できる。
そして、日本宗教者平和協議会(宗平協)が結成される。宗平協は、ベトナム戦争への抗議、インドシナ問題、靖国問題への対応、反核運動などを行った。しかし、宗平協などの、宗教者平和運動に参加する仏教徒は教団の中でも周辺的な存在であり、宗教者平和運動自体もその社会的影響力は決して高くない。
現代における仏教徒の平和社会活動
現代の「政治行動主義型」の活動
二〇〇一年のアメリカ同時多発テロをきっかけに宗教者平和運動は新たな展開を見せている。
テロ事件を受けて、多くの宗教団体が生命や談話を発表し平和を訴えた。そして、「平和を作りだす宗教者ネットワーク」や日本国憲法第九条を守るために結成された市民団体・九条の会に呼応して「宗教者九状の和」が設立された。
両団体はいずれも超宗教・超宗派の団体で現在も活動している。(抜粋)
現代の「社会的サービス型」の活動
二一世紀なり「社会的サービス型」の活動も、新たな展開がみられる。
貧困問題や自殺問題などの社会問題や東日本大震災以降・被災者への心のケアなどに取り組む仏教徒がいる。いわゆる「臨床宗教師」と呼ばれる人びとである。
二〇〇〇年代以降に仏教徒や仏教団体のプレゼンスが上がったが、東日本大震災以降、仏教に対する注目はさらに高まっている。その際、社会から求められているものは社会的サービス型の活動である。
そして著者、以下のように言って第十章を閉めている。
社会サービス型のであろうと、政治的行動主義型であろうと、仏教思想やその精神にもとづく社会活動がどのような意味や影響を人びとにもたらすか、これまで築き上げてきた仏教徒の社会活動の歴史的蓄積がその真価を発揮できるかどうか、今、そのことが問われている。(抜粋)
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