『それでも日本人は「戦争」を選んだ』加藤 陽子著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
5章 太平洋戦争 戦争の諸相
この章では、実際の太平洋戦争を様々な面からみてその実像に迫ろうとしている。
まず、著者は、吉田裕(著)『アジア・太平洋戦争』(岩波新書)のグラフから戦争の最後の一年半(四四年以降)で戦死者の九割が発生していることに言及する。これは四四年六月のマリアナ沖海戦によりすでに決着がついていたからといっている。これ以降に膨大な戦死者が出ていたが、国民にはこれがうまく伝わらないような政策がなされていた。
国民全体が敗戦を悟らないように、情報を集積できないようなかたちで戦争をつづけていた。それが一九四四年の状況でした。(抜粋)
太平洋戦争は、日本のみならず中国やアジアに膨大な被害をもたらした。しかし、日本の場合、受身の形(被害者)で語られることが多い。これについて著者は二つの視点から説明する。一つは、戦死者の九割が遠い戦場で亡くなったこと(ここで著者は折口信夫を引き合いに出し日本独自の慰霊についても説明をしている)。もう一つは、満州における国民的な記憶であるとする。満州には終戦時に200万人の日本人がいた。そのうちソ連に抑留された人が63万人。ソ連侵攻後に亡くなった人が、24万人である。
亡くなった方を除き、また、帰国のすべがなかった残留孤児や残留婦人などを除き、多くの国民は満州から引き揚げます。先の人口から換算すると、敗戦時の人口の8.7%の国民が引き上げ体験をしていることになる。・・・中略・・・・確かに満州からの引き上げ体験は過酷なものであったはずです。被害や労苦の側面から語られがちであるのは仕方ありません。(抜粋)
最後に著者は、日本とドイツとの比較から、日本がいかに人命を軽視していたかについて、語っている。日本とドイツでの捕虜の死亡率を比較するとドイツの1.2%に対して日本のそれは、37.3%に上る。
このようなことがなにから来るかというと、自国の軍人さえ大切にしない日本軍の性格が、どうしても、そのまま捕虜への虐待につながってくる。(抜粋)
このような日本軍の実態は、藤原彰(著)『飢死した英霊たち』(青木書店)に詳しく書かれている。そして、このような日本軍の体質は、国民の食糧にも表れていて、国民の摂取カロリーは四〇年の段階で三三年の六割にまで落ちていた。ところがドイツでは、降伏する二か月前までのエネルギー消費量は、三三年の一、二割増えている。ドイツでは国民が不満を持たないように食料だけは絶対に減らさないようにしていた。
Reading Journal を再開しようと思って読み始めたこの本。だいぶ長くかかってしまった。序章で歴史家がどのような問題意識をもって研究しているかをいくつかの例をもって書かれていてとても参考になった。第一章からは時系列に並んでいるが、著者が問題としている話題ごとに話が前後していて普通の歴史書とはだいぶ趣が変わっている。本書は中高生への講義の記録なので、中高生への問いかけ、中高生からの質問などを交えていて、脱線などもあり示唆に富んでいた。
関連書:吉田裕(著)『アジア・太平洋戦争』岩波書店(岩波新書)2007年
関連書:藤原彰(著)『飢死した英霊たち』青木書店 2001年
関連書:藤原彰(著)『飢死した英霊たち』筑摩書房(筑摩学術文庫)2018年
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