『日本語の古典』 山口 仲美 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
II 貴族文化の花が咲くーーー平安時代 12 堤中納言物語ーーカタカナを書く姫君は何歳か
前回の『源氏物語』は、力が入っていましたね。っで、今日のところは『堤中納言物語』である。ここで著者は、「虫めずる姫君」の節を取り上げて、姫君の年齢を推理している。そう、テーマは「カタカナを書く姫君は何歳か」である。では読み始めよう。
『堤中納言物語』は、平安時代末期にできた日本最初の短編物語である。中には次のような10編の話が載っている。
- 「花桜折る少将」
- 「このついで」
- 「虫めずる姫君」
- 「ほどほど懸想」
- 「逢坂越えぬ権中納言」
- 「貝合」
- 「思はぬ方に泊りする少将」
- 「はなだの女御」
- 「はいずみ」
- 「よしなごと」
その他、断簡があり、それを一編と数える人もいるが、わずか数行なのでここでは一編に加えていない。
この物語のそれぞれの短編は文体などが違っているため、別々の作者によって書かれた可能性が高い。しかし、だれがこれらの物語を集めたのか、なぜ『堤中納言物語』と言うのか、分からないことも多い。
しかし著者は、これらの短編はどれもユニークで面白いと言っている。ここでは、この中で「虫めずる姫君」を姫君の年齢を推測しながら紹介している。
「虫めずる姫君」
「虫めづる姫君」は、花や蝶でなく、毛虫を手にのせ観察をしている。そして、
「人々の、花や、蝶やとめづるこそ、はかなくあやしけれ。人は、まことあり、本地たづねたるこそ、心ばへおかしけれ(=人々が、花や蝶をもてはやすのこそ、全くあさはかでばかばかしいことね。人には真実を知りたが心がある。物事の本質を追求するのこそ、すばらしい心遣いなのよ)」。」(抜粋)
と言っている。口にする言葉も「本地」のような特殊な漢語を幾つも使用している。
そして、虚飾も排除し、眉を書くことやお歯黒もしない。
「眉さらに抜きたまはず。歯黒め。さらに「うるさし、きたなし」とて、つけたまざず」(抜粋)
そして、
「いと白らかに(=真珠のような白い歯を出して)笑」む。(抜粋)
ここで、著者はお歯黒に姫の年齢を知るヒントがあるとしている。江戸時代では、「歯黒め」は結婚した女性がするものであったが、平安時代には、八、九歳頃に行う習慣である。したがって、姫は、少なくとも八歳以上である。
そしてある時、いたずら好きの貴公子・右馬佐が、本物そっくりに作った蛇を袋に入れ、姫にプレゼントをする。大騒ぎになるなか、父が聞きつけ駆けつける。そして模造品であることが分かる。父は、姫君に若者に返事を送るようにいう。
「仮名はまだ書きたまはざりければ、片仮名」で「ご縁があったら、極楽でお逢いしましょう。お傍に居にくいんですもの、そんな長い蛇の姿では」(抜粋)
と返事をする。
著者は、ここで、姫の年齢を知るヒントがあるとする。当時は、片仮名を習いその後に平仮名を学ぶ。普通の女性は結婚適齢期までに男性と和歌のやり取りができるように平仮名を学ぶ。してみると片仮名を書く姫は、まだ、結婚適齢期前だろうか?
しかし、よく読むと姫は、男性と同じように漢字を書く練習をすでにしている。
ここにおよんで、右馬佐は姫がどのような容姿かみたくなり、女装をして垣間見ると、なんと美人であった。そして右馬佐が、姫に歌を詠んで送る。
つまり、姫の年齢は、プロポーズしてもおかしくない年齢で、当時の結婚適齢期の一三、四歳くらいであったとわかる。
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