『陰翳礼讃・文章読本』 谷崎 潤一郎 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
体裁について(その3)—- 三 文章の要素
今日のところは「体裁について」“その3である。これまで4つの文章の体裁のうち「イ 振り仮名、送り仮名」(”その1“)と「ロ 漢字及び仮名の宛て方」(”その2“)が取り扱われた。今日のところ”その3“では、「ハ 活字の形態の問題」に簡単にふれた後、「二 句読点」の問題が解説される。それではよみはじめよう。
ハ 活字の形態の問題
まず谷崎は、日本で用いられる活字の大きさが小さすぎると苦言を呈している。よく使用される五号活字や九ポイントだと、濁音符と半濁音符の区別もつきづらいくらいである。せめて単行本には四号活字を流行させるのがよい。四号ならば振り仮名の活字も大きくなり総ルビにしてもそれほど読みづらくなくなる。
活字の形態も現在は明朝とゴシックの二種類であるが、日本は美術的文字を持ち、楷、行、草、隷、篆、変体仮名、片仮名などの字体があるので、そのような字体を使って視覚的要素に利用する方が良い。
二 句読点
口語文の句読点
口語文に使われている句読点としては、
- センテンスの終止を示す 。
- センテンスの区切りを示す 、
- 単語の区分けをする ・
- 引用符 「 」、『 』
- 疑問符 ?
- 感嘆符 !
- ダッシュ ―
- 点線 ・・・
の八種類である。
引用符「 」の代わりに西洋の “ などを用いる人もあるが、まだ普及していない。
谷崎流の句読点の取り扱い
しかし、谷崎は、日本語の文章では、西洋風のセンテンスの構成を必要としない立場であるので、センテンスの終止や区切りのような使い方をしないと、言っている。
日本文の場合はセンテンスの区切りが曖昧であることを具体的な例をもって示している。
ですから、句読点と云うものも宛て字や仮名使いと同じく、到底合理的には扱い切れないのであります。(抜粋)
そのため谷崎は、句読点を視覚的効果として取り扱い、読者が読み下す時に、調子の上から一息入れて貰いたい場所に打つことにしている、と言っている。この使い方は実際にはセンテンスの構成と一致する場合も多いが、必ずしもそうではない。
ここで谷崎は、この方針を徹底的に押し進めた『春琴抄』の一文を引き、さらにそれをセンテンスの構成と一致するように句読点を打った文と比べている。
この二つを読み比べて御覧になればお分かりになるでありましょうが、私の点の打ち方は、一、センテンスの切れ目をぼかす目的、二、文章の息を長くする目的、三、薄墨ですらすらと書き流したような、淡い、弱々しい心持を出す目的を、主眼にしたのであります。
ここで、引用されていました『春琴抄』ですが、読みました!こんな、工夫を作者がしているなんて思ってもみませんでしたよぉ~。ただ、ここに掲げれれている3つの目的ですが、両方の文を読んでみましても・・・・う~ん、良くわかりません。谷崎先生ごめんなさい、つくジーは残念な生徒でした。(つくジー)
疑問符と感嘆符について
疑問符や感嘆符は、西洋では疑問や感嘆のセンテンスには必ず打つことになっているが、日本語では気分本意で規則的ではない。
さればこれらの符号や点線やダッシュ等を、時に応じて抑揚或いは間の印に用いることは差支えありませんけれども、日本文の字面にはダッシュが一番映りがよく、感嘆符や疑問符は、ややとすると映りが悪いことがあります。(抜粋)
谷崎は、疑問符や感嘆符を日本語に使うのは否定的であるが、疑問符については例外がある、と言っている。それは、「君はしらない?」「知っている?」などの否定形乃至肯定刑と同一の形をとった疑問文の場合である。これらは、会話では、アクセントを以て区別するが、文字で書く場合はアクセントが分からなくなるので、「?」によって疑問形であることを示す方が読者に親切である。
引用符ついて
西洋風のクォーテーション・マークは、縦書きの日本文の字面には調和しない。用いるとすれば、二重カギ『 』、か一重カギ「 」である。この『 』、「 」は、まったく同一の用途に使われ、各人の使い癖にまかせてある。
谷崎自身の使い方は、
「 」を英語の第一クォーテーション・マーク、『 』を第二クォーテーション・マークに宛てる、(抜粋)
という使い分けをしていると、述べている。
しかしながら、返す返すも日本語の文章は不規則なところに味わいが存するのでありまして、句切りやその他の符号などもあまりはっきりしない方が面白いのでありますから、唯今述べました疑問符や引用符なども、ぜひその通りになさいと申すのではありません。(抜粋)
句読点のつけ方のまとめ
最後に、このような句読点のつけ方について、次のように述べてこの節を閉じている。
さればこの符号の付け方も、規則で縛ってしまわずに、その文章の性質に依り、字面の調和不調和をも考え合わせて、適当に塩梅したほうがよいかと思います。(抜粋)
関連図書:谷崎潤一郎 (著) 『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄』 文藝春秋(文春文庫・現代日本文学館)、2021年


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