『ネガティブ・マインド : なぜ「うつ」になる、どう予防する』 坂本真士 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第4章 ネガティブ・マインドの調節
4.5 ネガティブ・マインドの適応学
いよいよ4章の最後、4.5節に入る。これまでは、ネガティブ・マインドをどのように解消するかについて解説されていたが、この節では、ネガティブ・マインドのメリットに光を当てている。
本書では、うつという感情を発生させる心の動き(認知)を「ネガティブ・マインド」と呼んで。その特徴やうつに至る心理的メカニズムを明らかにしてきた。
・・・・中略・・・・
では、うつ感情やネガティブ・マインドは個人や社会にとって不要なものであり、ない方がよいだろうか。それとも、何らかのメリットがあるのだろうか。本書の最後でこの問題を考えてみよう。(抜粋)
まず、著者は「進化」の視点から不安などネガティブな感情は、生存を脅かす対象に備えるという意味があるといっている。そして、うつという感情にも適応的な意味が考えられるとしている。個体が何かの目標に向けて行動をとって失敗した時に、うつな感情を経験することにより、楽観的なものの見方を変えて、行動が間違ってなかったかを再評価するきっかけになる。また、憂うつな感情が、争いを避けて個体の生き残りの助けになる可能性がある。
次に、著者が大学生に行った「ネガティブ・マインド」のもたらす「メリット」についてのアンケート結果から以下のようなメリットが考えられるとしている。
- 自己洞察:ネガティブな感情や考えによって自己のことについて考えをめぐらし、自己を客観的に見ることができる
- 自己の受容と表出:自己洞察して知った新たな自分の側面を受け入れることができる
- 自己改善への願望:ネガティブな感情や考えを意識することによって、自己改善や課題達成への動機づけとなる
- 学習:ネガティブな感情を経験したことから、どうしたらそうならないかを学習することができる
- 自己資源の防衛:これから起こる事に対し、ネガティブな予測をすることで、そうならないような策を講じ、自己の持つ資源を防衛することができる
- 自尊心防衛:ネガティブな事態を予想し、あらかじめ言い訳を作っておくことで、自尊心への脅威を低めたり、実際にうまくいかないときのショックを和らげることができる
- 精神的成長:ネガティブな感情や認知を体験することで、自己向上を目指したり、自己受容できたり、他者や周囲につういての理解が増したりして、結果として人格的に成長することができる
- カタルシス:ネガティブな感情を大げさに表出し、「悲劇のヒロイン」を演ずることにより、満足するという感情を抱く(カタルシス)
- 他者・世界の理解の促進:他の人との軋轢から生ずるネガティブな感情や考え方によって、他の人と自分の考えが違うことを理解し、自分の視野を広げることができる
- 良好な対人関係:ネガティブな感情や考えをいだくことで、他者への感謝に気がついたり、他の人とうまくやっていくことの重要さに気がついたりして、良好な人間関係を目指すようになる
- 自己呈示:ネガティブな感情を意図的に表出することにより、他者からの共感や援助を引き出すことができる
このようにネガティブ・マインドにもメリットがあるが、このメリットを享受するには、個人の力量が問われると著者は指摘している。そして、最後に、次のように言って節を閉じている。
ネガティブ・マインドをどのように使いこなすか?ここに不透明な時代を生きるカギが隠されているように思う。(抜粋)
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