『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第6章 習慣と態度―非意識説(その3) 2 習慣 ― 決して目立たない偉大なモチベーション(後半)
今日のところは「習慣」の後半である。前半では、「行動心理学」の「行動分析学」及び「新行動主義」での習慣の考え方について解説された。後半では、どのようにして「習慣化」がなされるのか、習慣化のメリットが解説されている。
習慣は、先天的なものでなく後天的に学習されるものである。習慣が身につくことを習慣化という。「習慣化」とは、「特定の刺激(キー)に対して特定の活動パターンが繰り返されることによって、自動化し、定着し、努力することなしに遂行できるようになるプロセス」である。
われわれ人間には、ものごとを関連づけようとする知覚の傾向性があるという。カーネマンはこれをシステム1のはたらきとした。この傾向性によって神経回路のネットワークが新たに形成されることで習慣になるのだという。(抜粋)
この習慣化の形成のされ方には、「フィードバック説」と「認知説」の2つがある。
フィードバック説
「フィードバック説」は、「三項随伴性(ABC分析)」の後続事象がフィードバックの働きによって習慣化する、というものである。このフィードバックは、報酬(正のフィードバック)と罰(負のフィードバック)に大別され、これらの提供が繰り返される結果、習慣化が促進される。ここでいう報酬は、あくまで比喩的な意味であり、必ずしも物質的なものを示しているわけではない。ここでの報酬の本質は、欲求が満たされることによるポジティブな感情であり、たとえば自尊や自己実現といった欲求の充足なども含まれる。
認知説
次に「認知説」は、明確なフィードバックが無い場合でも、「意図の繰り返し」によって「状況-反応リンク」が強められるという説である。特定の状況、目的、反応間の結びつきが強められ、それが記憶のネットワーク構造の一部に組み込まれることによって、システムIが当該の状況を感知すると、それに対応した目標志向的な反応が自動的に生じる。
このシステム1の習慣はシステム2の「目標システム」と共同して働くこともわかっている。
- 特定の反応を繰返すことが当人に求められる状況や環境に対して、目標システムが意識的な「光」を当て続けることで習慣が成立する(照射)
- ストレスを感じたり、気が散った場合には、目標システムが習慣的反応をコントロールする(活性化/制止)
- 頻繁に繰り返す習慣的な行動を意識することで自分の目標や動機を推し量る(推論)
このように習慣は、目標システムと共同して働き、習慣化や改善、コントロールなどがなされる。
ウィリアム・ジェームズは、いまから100年以上前にこの習慣が生理学的見地から神経系に形成されると考え、そのメリットとして、
- 1.習慣はわれわれの運動を単純化し、これを正確にし、かつ疲労を減少させる。
- 2.習慣はわれわれの動作を遂行するのに必要な意識的注意を減ずる
の2点をあげている。
習慣というのは、ひとまとまりの「行為プログラム」である。それが発動すると、意志や思考が必要なくなり、プログラムの発動中は、知情意の干渉を感じることなく進む。それにより労力の節約がはかられる。
習慣には「行為習慣」だけでなく、心の内側の「心理習慣」がある。この心理習慣には、「情報を鵜呑みにしない習慣」(メディア・リテラシー)、「結論を出す前に、判断を留保する習慣」(クリティカル・シンキング = 適切な基準や根拠基づく論理的で偏りない思考)などもあり、パフォーマンスの質を左右する。
そして、著者は、人間の徳性も習慣だとする考え方があるとして、アリストテレスの言葉を引用している。
恐ろしいことを見下し、それに耐えるように習慣づけられることによって、われわれは勇敢になり、またそうなったときに、われわれは恐ろしいことを最もよく耐えうることができるはずだ。(抜粋)
そして最後に、まとめとして次のように記している。
ここで確認すべきは、このような心理習慣についても行動習慣と同じ習慣メカニズムが想定されているという点だろう。つまり、損得勘定であれ、良質な思考習慣であれ、徳であれ、そのいずれもフィードバックや意図の繰り返しによって身体化されてた学習の所産なのである。(抜粋)
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