『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第3章 達成と価値―目標説(その4)
3 目標内容アプローチ(後半)
今日のところは、「目標内容アプローチ」の(後半)である。ここまでモチベーションは、すべて自分自身の福利を目指すもの「自己志向的動機」として考えていたが、ここでは、われわれが他者のために何かを成そうとする「利他的」なモチベーション(「他者志向的動機」)について解説している。利他的なモチベーションの場合は、これまでと異なる説明が必要である、と著者はいっている。
「他者志向的動機」「自己志向的」動機を対置させた分析した研究(ボランティア活動)によると、「利他的」なモチベーションの要因は、他利的は価値観、他者への共感、社会貢献という「利他心」である。そして、そこには「自己成長のため」といった自己志向的動機もあり、複合的である。
このように「他者の福利を増すことを最終目的とするモチベーション」を、「利他的動機付け」と呼ぶ。そして、人はそもそも生得的に利他的な傾向性があると指摘されている。
利他的動機づけは、援助を必要としている他者の福利に関する知覚によって生じる他者志向的感情(共感に基づく同情、哀れみ、苦痛、悲嘆など)を基盤とし、他者のために何かをすることを通して、自分の持つ利他的な欲求が満たされ、互恵的な快感情(思いやり、感謝など)が生じるという、人類共通のモチベーション・システムに基づく現象なのだという。(抜粋)
ここで著者は、この利他的動機づけを「ギブ・アンド・テイク」のような報酬原理や「ウィン・ウィン」といった勝ち負けの枠組みと区別しないといけないと注意している。利他的行動がもたらす満足感は、無償だからこその喜びである。
「欲求理論」では、他者との良好な関係を維持したり、集団に適合したりするなどを「親和的欲求」として強調し、欲求階層論では、「所属と愛情の欲求」、「関係欲求」と理解されてきた(第2章第3節参照)。
近年、パウマイスターらは、あらためてこの欲求を所属欲求と再定義し、欲求階層説のようにそれを下位の欲求に位置づけるのではなく、社会的な行動のモチベーションや人の適応を説明する主要な欲求として評価した。(抜粋)
彼らは、このような欲求を生まれつき持っているという点を強調した。特に他者との友好的関係を求める欲求を親密動機としている。
そして、集団に適応し社会状況で生き残るために必要な動機として、「社会的なコア動機」の存在を指摘していうる。
「社会的コア動機」は、「所属動機」とその下の4つの動機からなり、さらに「認知動機」と「理解動機」に二分される。
〇社会的コア動機 所属動機 認知動機 理解動機 コントロール動機 感情的動機 自己高揚的動機 信頼動機
認知的動機は、われわれの思考に係り、理解動機は、他者と情報をシェアし、意味理解を深める行動を促す。コントロール動機は、対人的、社会環境的に有能であろうとする動機である。
感情的動機は、われわれの感情に係り、自己高揚的動機は、自己志向的な性質を持つ。信頼動機は、社会を基本的によい存在とみなし、他者志向的な性質がある。
他者と関わる社会では、自分が「どう受け入れられるか」、「適応できるか」が問われる。そのような状況でもモチベーションは、「自己イメージ目標(自分をよく見せようとする目標)」と「思いやり目標(他者の福利を高めようとする目標)」によって説明できる。
いずれの目標も所属欲求を満たすことが目的であり、社会集団への適応が目指されているという点においては同じなのだが、その方向性はまったく異なっている。(抜粋)
一連の研究により、思いやり目標のほうが対人関係に対して適応的であることが分かっている。
この、2つの目標には2種類のモチベーション・システムが対応している。
- 「エゴ・システム」(自己イメージ目標に対応)
自我(エゴ)の欲求に基づくモチベーション・システムで自分がどのように思われているか、どう評価されているかに注意が向けられ、自分の欲求を満たすことが優先され、他者は自分の欲求を満足する、あるいは妨害する存在としてとらえる信念体系。対人的な場面では自己防衛や他者との競合という性質を帯びる。 - 「エコ・システム」(思いやり目標に対応)
他者の要求を満たすことは自分の要求を満たすことでもあり、そのことが全体の幸福にもつながるという信念体系。他者との相互信頼の感覚によって活性化される。
他者とのつながりを本質とするこのエコ・システムこそが、個人の社会的な適応という観点のみならず、生物学的な観点からも妥当なモチベーション・システムなのだと結論づけられている。(抜粋)
ここから、「多重目標プロセス」の話に移る。
実際の、生活では同時に複数の目標を持ちながら臨機応変異使い分けたり、両立させたりしている。利己的/利他的モチベーションは、このような多重プロセスという観点からも論じられる。
われわれは、個人の達成目標だけでなく、社会的目標(=特定の社会で成果を上げること)も抱いている。この社会的目標の背後には「親密動機」や他者から認められたいという「自己高揚動機」がある。
社会的目標を達成するためには、向社会的目標(=他者を援助したり、協力したり、何かを共有することを目指すこと)、社会的責任目標(=集団のルールや個人間の約束を守ったり、責任を果たすことを目指すこと)が重要である。
しかし、状況においては目標間で両立不可能、さらに二者択一に追い込まれる場面も発生する。われわれの活動では、複数の目標を同時に実現しようとしたり、状況に応じて目標を柔軟に使い分けたりしている。そして、そのような目標の両立や使い分けには個人差があり、時に両立が不可能になったり、ジレンマに陥ったり、特定の目標をあきらめたりせざるを得ない状況に陥る。
この多重目標という特徴は、グループ活動のみならず、多くの社会的な達成場面における状態レベルのモチベーションに共通しているといえるだろう。現在進行形の状況でよりよい問題解決を目指して目標を調整する行為は、以下に記す目標プロセスアプローチの主要なトピックスである。(抜粋)
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