ナッジとは何か(前半)
大竹 文雄『行動経済学の使い方』より

Reading Journal 2nd

『行動経済学の使い方』大竹 文雄 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第2章 ナッジとは何か(前半)

今日から第2章「ナッジとは何か」である。第1章において、伝統的経済学に比べて、実際の意思決定には、様々なバイアスが存在していることがわかった。そこで、その意思決定をより良いものにするというのが、第2章の主題の「ナッジ」である。第2章は、“前半”と”後半“に分けて、”前半“では、「ナッジとは何か」について、そして”後半“では、「ナッジのチェックリストと具体例」についてまとめることにする。それでは、読み始めよう。

ナッジとスラッジ

ナッジとスラッジ

ナッジ(=「軽く肘でつつく」という英語)」は、「選択を禁じることも、経済的インセンティブ(行動を起こさせる刺激や動機)を大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャー(人の行動を望ましい方向に導くための環境設計)のあらゆる要素を意味する」と定義される。

一般的に、人々の行動を変えようとする時には、「選択の自由を制限する」とか「税や補助金(金銭的インセンティブ)」を使用する。これに対して、「ナッジ」は行動経済学の知見を使って選択の自由を確保しながら、金銭的インセンティブを用いずに行動変容を起こすものである。また、逆に行動経済学の知見を用いて、人々の行動を自分の私利私欲のために促したり、よりよい行動をさせないようにしたりすることを「スラッジ(= 「ヘドロ・汚泥」の意の英語)」という。

ナッジの設計のプロセス

このナッジをうまく設計できれば、私たち自身の意思決定はよりよいものになる。このナッジを設計するために、OECD(経済協力開発機構)の行動洞察チームがBASICという設計プロセスを提案している。それは

  • B (Behaviour)・・・人の行動を見る
  • A (Analysis)・・・行動経済学的に分析する
  • S (Strategy)・・・ナッジ戦略を立てる
  • I (Intervention)・・・ナッジによる介入を行う
  • C (Change)・・・効果を見て政策や制度を変化させる

というものである。

具体的には、人々の意思決定のプロセスを観察し、それにかかわる行動経済学的なバイアスとその影響を推測する。そして、それにかかわるナッジの候補を選んで実施可能なものを決める

意思決定のプロセスの観察

意思決定のプロセスの観察するときは、その意思決定を本人が重要なものと意識しているものか無意識に行っているかを検討することが必要である。重要と認識しているのに望ましくない行動をとってしまう時は、どういうバイアスがあるかを推測する。また無意識に行っている場合は、その行動の重要性を本人に気づかせるようなナッジが必要である。

そのほか、意思決定のタイミング、能動的か自動的か、何種類の選択肢があるか、フィードバックすることが可能か、行動をするインセンティブが金銭的なものか非金銭的なものか、意思決定においてどのような情報を得ているか、意思決定するときに心理状態(感情的かなど)、エネルギーが必要な意思決定か、意思決定が行われる環境、などを考える必要がある。

ナッジの設計

ナッジの設計において一番重要なのは、本人自身が自分の行動変容を強く願っているか、それとも本人があまり気にしていないことを気づかせて行動変容を起こさせるのか、どちらのパターンなのかを見極めることである。(抜粋)

本人が望む場合は、「現在バイアス」や「自制心」が原因となる場合が多い。そのため「コミットメント手段を提供」したり「自制心の向上」を促したりするようなナッジが有効である。また行動変容を意識的に行わせるか、無意識の行わせるかによってもナッジの作成が変わる。

ナッジの選び方

ナッジを選ぶには行動経済学的にどのようなボトルネックがあるかを検討する必要がある。

  1. 本人が自分がやらなければならないことを知っているのに達成できない:自制心を活性化するようなコミットメントメカニズムの提供、社会規範ナッジ
  2. 望ましい行動を知らないのでできない:情報提供、デフォルト設定、社会規範メッセージ
  3. 自分自身でナッジを課するだけの意欲がある:コミットメカニズムの提供デフォルトコミットメント
  4. そのような意欲がない:政府や組織が設定する外的なナッジが必要
  5. 情報の負荷が多すぎる:シンプルに何をすればよいかがわかうように、必要な情報だけ与える
  6. 引き起こしたい行動と競合的な行動が存在する:競合する行動を抑制様なナッジ

このようにボトルネックの特徴を明らかにして、それを引き起こしている鼓動経済学的特性に応じたナッジを選ぶことが大切である。

どのようなナッジを優先すべきかについては、まず意思決定の上位にあるボトルネックを解決するナッジを選択することが重要である。また自制心を高めるナッジは、もともとそのような行動をとりたいと思っていた人にしか効果がない。デフォルト設定型のナッジは、多くの人に効果があるが、誰に対しても同程度の効果しかない。さらに、ナッジが長期的にも効果があるか、よりよい習慣を形成することが出来るという観点も優先順位を考える上で重要である。

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