二元的民主政 — 新しい権力分立?(その4)
長谷部 恭男 『憲法とは何か』より

Reading Journal 2nd

『憲法とは何か』 長谷部 恭男 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

第4章 新しい権力分立?(その4)

今日のところは、「第4章 新しい権力分立?」の“その4”である。第四章のこれまでの議論において、大統領制やイギリス型の議院内閣制よりも、ドイツや日本型の「制約された議院内閣制」の方が望ましいというアッカーマンの主張が紹介された。

今日のところ“その4”では、アッカーマンがあるべきリベラル・デモクラシーとしている二元的民主政について解説されている。それでは読みはじめよう。

アッカーマンの主張

まず著者は、

リベラル・デモクラシーをこれから立ち上げようとする国家にとっては、大統領制やイギリス型の議会内閣制よりは、ドイツ型や日本型の「制約された議会内閣制」が望ましい選択である」

とアッカーマンの主張の論旨を要約している。

アッカーマンの理想とするリベラル・デモクラシー

そしてここで、アッカーマンの理想とするリベラル・デモクラシーのイメージを紹介している。

アッカーマンは彼の理想とするリベラル・デモクラシーとして二元的民主政を主張している。これは一元的民主政と対比される。

  • 一元的民主政:イギリスが典型である。イギリスには憲法典がなく、理論上はイギリス議会は万能となる(単純多数決でなんでも決められる)。
  • 二元的民主政:アメリカなど:憲法典があり、その憲法の文言を変更するには、特別な改正手続きが必要となる。
しかし、アッカーマン氏が、アメリカの民主政は二元的だというとき、憲法と法律とでは制定の手続きが異なるという以上のことが意味されている。(抜粋)

国の根本原理と憲法

上記のように、アッカーマンが考えるに二元性とは憲法が法律よりも厳格な制定手続きが必要である、ということ以上の意味がある。そして、その考え方が「新しい権力分立」論の背景となっている。

憲法の規定の中には、必ずしも一国の根本原理を定めているとはいいがたいものも少なくなく、反対に一国の根本原理が必ず憲法典に規定されているとも限らない

このことを著者は、日本国憲法の中で例を示している。

  • 参議院の任期:憲法四六条で定められているが、この規定が現在の六年から変わったとしても、それほどの影響はない。(憲法九条のようなものは、国の根本原理となる)
  • 個人の名誉、プライバシー:これは憲法に規定されていないが、憲法に明記されている表現の自由を制約する理由になりうることが、判例によって確認されている。(憲法に書いてないという理由で、表現の自由を制約できないとすると、国の根本原理が変わってしまう)
つまり、国のあり方を定める根本原理は、必ずしも憲法に明記されているとは限らない。そして、その変更には慎重さが要求される。アッカーマン氏も、その点を強調する。(抜粋)

憲法政治と通常政治

政治世界は、さまざまな利害の競合と調整を行っているため、社会の根本的なあり方を議論する場になりにくい。しかし、ときには、社会全体の利害に関わる大きな問題の存在が意識されて、世論の方向づける指導者の下で、根本的な原理の変更を運動が沸き起こることがある。

アッカーマン氏はアメリカ合衆国の歴史上そのような変革が

  1. アメリカ合衆国の憲法制定までの建国期
  2. 南北戦争から戦後の復興期
  3. ニューディール期

の三回あったとしている。この時期に人々は偉大な指導者のもと、私的な利害よりも社会全体の利害を考え、根本的原理の変更を成し遂げている。

しかしその機会は稀であり、根本的な原理が成功裏に変革される機会はない

アッカーマン氏は、国の根本原理を変革する政治過程を「憲法政治(constitutional politics)」と呼び、日常的な利害調整に関わる政治過程を「通常政治(normal politics)」とよんで区別する。彼のいう二元的民主制とは、この二つの政治過程が区別される政治体制を指す。イギリスのような一元的民主制では、この二つを区別することが困難である。(抜粋)

憲法を持つ国家においても、憲法の改正のすべてが憲法政治ではないし、憲法改正によらない憲法政治もある。(ニューディール期には、政府の任務と活動範囲を含めて、国家と社会のあり方が根本的に変わったが、憲法典の変更はなかった)

アッカーマン氏が言っているのは、こうした二元的民主制を的確に運営するためには、制約された議会内閣制の方が容易であり、新興のデモクラシーにとっては、それを採用することが賢明だということである。(抜粋)

なるほど、つまるところ、何が重要かというと、国の根本原理の変更が伴う「憲法政治」のようなことは稀なので、そのような重要なことが容易に変更できない仕組みが重要で、それを担保するためには「制約された議会民主主義」がオススメってことのようですね。(つくジー)

コメント

タイトルとURLをコピーしました