ファンタジーの世界で遊ぼうよ / いまひとたびの、あの元気と明るさを
柳田邦男 『人生の一冊の絵本』より

Reading Journal 2nd

『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

ファンタジーの世界で遊ぼうよ

『ちいさなちいさな王様』

柳田邦夫は、アクセル・ハッケ(作)、ミヒャエル・ゾーヴァ(絵)の『ちいさなちいさな王様』(講談社)をいつも座右に置いている。ゾーヴァのシュールな絵は、意表をつく奇抜さがあり、ハッケによる小さな王様の語る言葉にもまた、現代への警句を含んでいる。

ちいさ王様の国では、みんな生まれたときからからだも知能も大人になっていて、どんどん仕事をこなしていくが、年月が経つうちにからだは小さくなっていき、多くの事を忘れ、仕事もできなくなっていく。(抜粋)

『とおい とおい おか』

『とおい とおい おか』は、ファンタジーの溢れる本である。羊飼いのおじさんが一匹の犬とともに羊の群れをつれてとおい丘まで行く。そしておじさんは帽子を顔に乗せて昼寝をする。そしてはっと目をさますと羊たちが次々と空に向かって飛び立つ。犬と一緒におじさんは走る。やがて日が沈むと羊と羊雲たちの区別がつかなくなり、くすんだ黄色から淡いピンク、そして紫色へと美しいグラデーションに包まれる。おじさんは家に帰り床につく。すると夢か幻か満月に照らされて羊たちが列をなして牧場へ降りてくる。

『ムーン・ジャンパー』

『ムーンジャンパー』をひらくと、田舎の四人きょうだいの少年少女が外で満月の月に光をあびて、草むらで踊ったり、月をさわろうと両手を伸ばしてジャンプしている。この絵本の挿絵は、『かいじゅうたちのいるところ』(冨山房)で有名なセンダックより書かれている。その絵には面白い変化がつけられ、新しい表現法にチャレンジしている。

子どもは、おもちゃやゲームはないほうが、想像力を駆使して、どんどんダイナミックに遊びを発見・発明していくものだ。そういう子どもたちの空想に富んだのびやかな遊びの世界を、センダックさんは独自の持ち味で表現して見せてくれる。(抜粋)

『みんなうまれる』

『みんなうまれる』は、太陽の光によって、草木が芽吹き、虫たちが生まれ、いろいろな色もうまれて、ぼくたちの赤ちゃんも生まれるという、生命誕生の数々を詞的な短文でつないでいくという内容である。

絵は水彩の爽やかな色づかいによって、モダンアート風だがそれほど突っ張らないで、形よりも色のイメージを前面に出す感じで描いていて、なかなかにユニークな絵法にしている。(抜粋)

関連図書:
アクセル・ハッケ(作)、ミヒャエル・ゾーヴァ(絵)の『ちいさなちいさな王様』、講談社、1996年
谷内こうた(作)『とおい とおい おか』、至光社、2005年
ジャニス・メイ・ユードリー(文)、モーリス・センダック(絵)、谷川俊太郎(訳)『ムーン・ジャンパー』、偕成社、2014年
きくちちき(作)『みんなうまれる』、アリス館。2014年

いまひとたびの、あの元気と明るさを

この章では、開拓精神を描いている絵本を三冊紹介している。

『リンゴのたび‐お父さんとわたしたちがオレゴンにはこんだリンゴのはなし』

一冊目は、『リンゴのたび‐お父さんとわたしたちがオレゴンにはこんだリンゴのはなし』である。この本は両親と10歳の私を含めた8人家族が、アイオワ州からオレゴン州まで三〇〇〇キロ余りをリンゴやモモ、ナシ、プラム、ブドウ、サクランボの苗木と共に移住した話である。

まだ自動車もない一九世紀中ごろのこと、長さが数メートルほどの大きな木箱を二つ作って、四輪の荷車に乗せ、肥沃な土を盛り、果物たちの苗木をびっしりと植えこんで、四頭の牛に引かせるのだ、幼い子どもたちを乗せる小型の荷車も後ろにつけてある。(抜粋)

一家は、荒野は山岳地帯を越えて進む一家には、次々と試練が待っていた。そして、やっとオレゴン州のミルウォーキーにつく。

絵が開拓時代の雰囲気と、困難に直面しても勇気と希望とユーモアを失わない家族の気風をのびやかに表現していて、なかなか魅力的だ。(抜粋)

『走れ!! 機関車』

2冊目は『走れ!! 機関車』である。一八六九年に最初の大陸横断鉄道が開通する。その建設の労苦、機関車の運転の大変さ、鉄道の旅の風俗と途中の町や草原の風景などを、この本は実にリアルに描いてある。

『エマおばあちゃん、山をいく‐-アパラチアン・トレイル ひとりたび』

三冊目は、『エマおばあちゃん、山をいく‐-アパラチアン・トレイル ひとりたび』である。これは、現代においてもフロンティア精神が息づいている農家の主婦のチャレンジを描いている。

若いころから中年期まで家事や子育てに無我夢中の日々を過ごしていたエマおばあちゃんが、六七歳になって、アメリカ東部の南北に連なるアパラチア山脈全長三五〇〇キロの自然歩道『アパラチアン・トレイル』を走破するという物語である。

作者のジェニファーさんは地図のイラストを得意とするというだけに、踏破とうはの途上の地図や状況を楽しめるように描いている。エマおばあちゃんはのチャレンジは、高齢社会における新しいフロンティア精神とはという問いに、ひとつのヒントを提供してくれているように思える。(抜粋)

関連図書:
デボラ・ホプキンソン(作)、ナンシー・カーペンター(絵)、藤本朝巳(訳)『リンゴのたび‐お父さんとわたしたちがオレゴンにはこんだリンゴのはなし』、小峰書店、2012年
ブライアン・フロッカ(作)、日暮雅通(訳)『走れ!! 機関車』、偕成社、2017年
ジェニファー・サームズ(作)、まつむらゆりこ(訳)『エマおばあちゃん、山をいく‐-アパラチアン・トレイル ひとりたび』、廣済堂あかつき、2018年

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