感性が刺激される逆転劇 / 光りより速い人間の想像力
柳田邦男 『人生の一冊の絵本』より

Reading Journal 2nd

『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

感性が刺激される逆転劇

この章では、「結末に面白さを秘めた絵本」が三冊紹介されている。

密林一きれいなひょうの話

一冊目は、『密林一きれいなひょうの話」である。柳田は、この絵本は、「おはなし=工藤直子」と書いてあり、音読や読み聞かせを求めているのだろうと言っている。

その始まりは、ひょうの「きれいなはんてん」がくしゃみとともに「家出」してしまうことから始まる。そして、ひょうははんてんを探しに森の中を歩き回る。そして、マントヒヒから、はんてんはちょうが大好きで、ひらひらと飛んで行った、と教わる。ひょうは大好きだったはんてんが、実はちょうが好きだったことを知って悲しく思う。そして、はんてんがちょうに成りたかったなら、ちょうははんてんに成りたいかもと思って、ちょうを探しに行く、

さあ、どうなるか。絵本のフィナーレは時に奇想天外、時に抜群の想像力による劇的な場面転換など、絵本作家の“腕”のみせどころだ。(抜粋)

サイモンは、ねこである。

2冊目は、『サイモンは、ねこである』である。ねこのサイモンは、周囲にライオンやトラなどがいても怖がることもなく、みんな同じネコの仲間だと思っている。しかし、猛獣たちはちっぽけなネコを同族だと思っていない。

いっしょにしてもらっては困るとライオンは、サイモンをにらむ。そしてトラも、おまえはどちらかと言うとねずみに似ているんじゃないかと言って、サイモンをにらんだ。

サイモンは、どう反論するか。ちっちゃなネコの鑑識眼はあまりに微妙なので、種明かしをしたらおしまいになってしまう。やはり原作を読んでもらおう。(抜粋)

コートニー

三冊目は、『コートニー』である。小学生くらいの女の子と弟と赤ちゃんの三人兄弟がいる家庭の話。ある日犬を飼いたいと兄弟いうと、両親も自分たちで世話するというので買ってよいといった。子どもたちは、捨てられた犬の保護所に行く。<ちゃんとしたいぬにするんだぞ>と両親に言われたにも関わらず兄弟は、<だれもほしがらないいぬ、いない?>と尋ね、老犬のコートニーをもらって帰って来る。両親は、<どうしてちゃんとしたいぬにしなかったんだ?>という。

しかし、コートニーはすばらしい執事のような犬だった。料理を作り、食事中に横でバイオリンを弾き、赤ちゃんに曲芸をしてみせて喜ばす。家が火事になるや、赤ちゃんを助け出す。そんな日々が経つうちに、ある日、突然いなくなる。(抜粋)

そして、夏の浜辺で子供たちの乗ったボートの綱が切れて沖へ流されてしまう。
両親は助けを求めて叫ぶ。すると、突然ボートの切れた綱を水中の見えない何者かが引っ張り、浜辺まで戻してくれた。

それは誰だったのか。何も書かれていないが、絵を細かく見直すと、遠くに立ち去るコートニーの姿が小さく描かれている。-----人は自分では気づかないところで、誰かに支えられて生きているのだということを、こんなかたちで表現できるところに、絵本の表現法のすばらしさがあるのだ。(抜粋)

関連図書:
工藤直子(おはなし)、和田誠(え)『密林一きれいなひょうの話』、瑞雲舎、2018年
ガリア・バーンスタイン(作)、なかがわちひろ(訳)『サイモンは、ねこである』、あすなろ書房、2017年
ジョン・バーニンガム(作)、谷川俊太郎(訳)『コートニー』、はるぷ出版、1995年

光りより速い人間の想像力

章の初めに柳田は絵本作家のあべ弘士さんの講演会を紹介している。そして、絵本には「その作家ならではのユニークな想像力に感服させられることが少なくない、と言っている。この章では、そのような絵本を四冊紹介されている。

このよで いちばん はやいのは

まずは、あべ弘士さんが講演会の最後で取り上げた『このよで いちばん はやいのは』である。この本は、走るものや飛ぶものを比べながら、より速いものを提示していく構成となっている。ウサギよりカモシカ、カモシカよりツバメ、ツバメより新幹線とより速いものをどんどんとつなげていく、やがて地球の回転、人工衛星、・・・とつづき、秒速三〇キロメートルの光が登場する。

ここで終わったら、単なる物理的な次元の速さ比べの絵本に終わってしまう。最後に意表をつかれるのが、光より速いものを登場させる場面だ。

<うちゅうの はてにある ほしにも なんびゃくねんさきの みらいの くにへも いなかの おじいちゃんや おばあちゃんの いえへも にんげんは そうぞうりょくの つばさを つかえば いっしゅんのうちに いくことができる。>(抜粋)

絵本は想像力豊かな作家によって創作され、読者もそれぞれの想像力を刺激される、そのような文学作品である。

トテム

2冊目は、北欧の伝説の小人を描いた『トテム』である。トテムは、スウェーデンの農家や仕事場にひそかに何百年も住んでいて、夜の番をしたり仕事がはかどるように手助けをして、その家の人が幸せになるように何世代にもわたって見守り続ける。

人がこの世で平穏に生きられるのを支えてくれる、目に見えない存在への感謝の気持ちを、トテムという小人を登場させることで表現する想像力のすばらしさ。(抜粋)

つきの ぼうや

3冊目は、『つきの ぼうや』である。まんまるの月の親が池の水面に映ったまあるい自分を見て、もう一つの自分がいるのではないかと気になり、まだ三日月の月の子どもに、地球に行ってあの月を連れてきてくれと、頼むお話である。

地球圏に入って出会う雲、渡り鳥の群れ、凧、煙突の煙、家々の窓、そして水のなかへ<ばっしゃーん!>。すべてがコミカルで、あったかい画風で描かれる。三日月や満月を仰ぎみて、こんな物語を想像できる絵本作家の感性は、やっぱりすごい。(抜粋)

IMAINE イマジン(想像)

4冊目は『IMAGINE イマジン(想像)』である。これはジョン・レノンの名曲「IMAGINE」を絵本化したものである。

想像してみよう、人生を平和に生きるという世界を—と呼びかけるこの歌の内容は説明しることもないだろう。想像力は速いだけでなく、人間の理性に無限の広がりと深まりをもたらしてくれるものなのだ。(抜粋)

関連図書:
ロバート・フローマン(原作)、天野祐吉(翻案)、あべ弘士(絵)『このよで いちばん はやいものは』、福音館書店、2006年
ヴィクトール=リードベリ(詩)、ハラルド=ウィーベリ(絵)、山内清子(訳)『トムテ』、偕成社、1979年
イブ・スパング・オルセン(作)、やまのうちきよこ(訳)『つきの ぼうや』、福音館書店、1975年
ジョン・レノン(詩)、ジャン・ジュリアン(絵)、ヨーコ・オノ・レノン(序文)、岩崎夏海(訳)『IMAGINE イマジン(想像)』、岩崎書店、2017年

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