『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
花のいのち、人のいのち、しみじみと
絵本には、大人が詠むと一味も二味も違う深い味わいのものがある。ここでは、そのような大人にこそ、しっかりと語りかけてくる不思議な絵本を二冊紹介される。
『はじまりのはなし』
一冊目は『はじまりのななし』である。この絵本は、ドイツの女性イラストレータが一枚一枚物語性のある絵を描き、その後にアメリカの児童書作家がその絵を見て詩情のこもった文を創作するという手順で制作された。
登場するのは、若い鳥のローザ、犬のミール、そして若い女性のアンナである。森の中に、ローザの頬のように赤い花がある。ローザはこれを<ほっぺのはな>と名づけていた。そして、鳥たちが暖かい国に出発する時、ローザはこの花の種と花をバッグに入れ飛び立った。しかし、バッグが重くて川に落ちてしまった。それを見ていたミールがローザを救い出し家に帰った。ミールと飼い主のアンナは、ローザを家族の一員のようにいたわった。
アンナがローザの持っていた<ほっぺのはな>の種をまくと、種はまもなく芽を出した。時がながれローザの仲間たちがローザを見つける。ローザは仲間たちと去らなければならない。
<ことばに できない さみしさが みんなの こころに わきあがる。(中略) ことばにしなくても つたわる さみしさが あふれて みんな だまったままだ>
アンナとミールが窓辺に立って、満月が照らす湖のほうを見つめるシーンが最後の絵となる。<ローザは くるりと えんを えがくように とんで さよならの あいずを おくった。とおくに いても ともだちだよ・・・・・>(抜粋)
『ルピナスさん』
二冊目は『ルピナスさん』である。この絵本は、アメリカの大御所の絵本作家・バーバラ・クーニーさんが一九八〇年代に創作した作品である。
主人公のアリス・ランツフィアスは、少々時代におじいさんから、遠い知らない国の話を聞かされた。アリスは、自分も遠い国に行って、おばあさんになったら海のそばの町に住むと約束する。するとおじいさんは、
<世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしてもらいたいのだよ>(抜粋)
と、もう一つ約束を付け加えた。
アリスは、南の島を訪ねたり、雪に閉ざされた高山に登ったり、砂漠を旅したりと自由に旅する人生を送る。そして、旅先で背中を痛めたとき、人生も終わりに近いと意識して、海辺の丘の上に家を建て、まわりに花の種をまいた。ほとんど寝たきりの生活の中でおじいさんとの三つ目の約束を果たすにはどうすればよいかを考える。
やっと体調が良くなり、家の近くを散策すると、自分がまいた種の一部が風で飛ばされて丘の向こう側で咲き乱れるのを見つけた。
ミス・ランフィアスの頭のなかに、ひらめきが走る。この海辺の村を美しい花で埋めつくそうと決心したのだ。(抜粋)
そして、夏の間に野原や丘、道のはし、学校のまわりなどにルピナスの種を蒔き続けた。やがて翌年の春が来ると、色とりどりのルピナスの花が咲き乱れた。村の人は、彼女をルピナスさんと呼ぶようになった。
年老いたルピナスさんは、村の子どもたちがやってくると、自分の人生を語った。そして、感動した子どもたちが、<大きくなったら、とおくにいって、かえってきたら、海のそばにすむわ>と言うと、こう返すのだった。<もうひとつしなくてはならないことがあるよ><世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしなくては>と。(抜粋)
関連図書:
マイケル・J・ローゼン(文)、ソーニャ・ダノウスキ(絵)蜂飼耳(訳)『はじまりのはなし』、くもん出版、2014年
バーバラ・クーニー(作)、掛川恭子(訳)『ルピナスさん』、はるぷ出版、1987年
森を守った物語
田舎で育った著者は、自然と様々な木々の種類を見分けられるようなるなど、森や木に親近感を持っている。本章では、木や森をモチーフとした絵本を古典的なものと新しいものと四点を紹介している。
『木はいいなあ』
一冊目は、アメリカの古典的な絵本『木はいいなあ』である。この絵本は、一九五〇年だいに保育園に勤めていたジャニス・メイ・ユードリイさんが自分の幼き日に味わった木や森のある生活のすばらしさを伝えるために書いた絵本である。
『モミの手紙』
二冊目の『モミの手紙』は、アメリカの「国民的詩人」ロバート・フロストさんの絵本である。
ある日シルクハットをかぶった商人が農場や山々に生えているバルサモミの木をクリスマスツリー用に一〇〇〇本買い占めようとやってくる。しかし、
<おまえたちは、ここにいることで、大事な、たくさんの仕事をしている。生きているからこそ美しく、立派なのだよ>
農家の主人のつぶやきだ。彼は売るのを拒否する。(抜粋)
そして彼は、一本のモミの木を描き、友人用のクリスマスカードにした。
<メリー クリスマス モミの木を一本、同封します>と書いて。(抜粋)
『森のプレゼント』
三冊目は『森のプレゼント』。この絵本は、『大草原の小さな家』で知られるローラ・インガルス・ワイルダーの短編を安野光雅さんが絵を添えて絵本化したものである。
父さんが木の板を削って、母さんへのクリスマスプレゼントの飾り棚を作るなど、自然界のなかで何事も手作りで楽しむ豊かさを語りつくしている。(抜粋)
『すばこ』
四作目は『すばこ』である。巣箱を最初に作ったのは一九世紀末、ドイツ中部で広大な領地を所有していたベルレプシュ男爵である。男爵は小鳥のさえずりが好きで、小鳥たちをたくさん集めるために多くの巣箱を作った。そして
男爵が脚光をあびたのは、一九〇五年にチューリンゲン地方の森や木が害虫の発生で大被害を受けたときだ。男爵の森だけは、たくさんの巣箱で育った小鳥たちが害虫を食べて駆除してくれたおかげで、ほとんど被害を受けずにすんだからだ。(抜粋)
関連図書:
ユードリイ(作)、シーモンド(絵)、さいおんじさちこ(訳)『木はいいなあ』、偕成社、1976年
ロバート・フロスト(作)、テッド・ランド(絵)、みらいなな(訳)『モミの手紙』、童話屋、1999年
ローラ・インガルス・ワイルダー(作)、安野光雅(絵・訳)『森のプレゼント』、朝日出版、2015年
キム・ファン(文)、イ・スンウォン(絵)『すばこ』、はるぷ出版、2016年
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