無垢な時間をあたえてくれる動物たち / 冬でも生きている小さないのち
柳田邦男 『人生の一冊の絵本』より

Reading Journal 2nd

『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

無垢な時間をあたえてくれる動物たち

生きものをモチーフにした絵本の中には、その驚きを誰かに話したくなるようなものが少なくない。ここでは、そのような絵本が四冊紹介されている。

『わたしのろば ベンジャミン』

一冊目は、『わたしのろば ベンジャミン』である。この絵本は三歳~四歳の少女スザンヌ(スージー)とろばの子ベンジャミン(ベン)の触れ合いを描いた写真絵本である。ある日パパが迷子のろばの子を家に連れ帰ってきた。そしてスージーの世話が始まる。

スージーとベンの物語が実に見事な記録写真でたどられていくのだ。スージーがベンに顔を寄せて語りかけるシーン。通りに出てベンの後ろ姿を見つけたシーン。浜辺でスージーが石投げをしている間、ベンがじっと待ってくれるシーン。家に帰る道がわからなくなって浜辺にへたりこんで泣くスージーの横にベンが身を伏せて困った表情をしているシーン、等々、私はいつの間にかスージーの身になって感動移入している。(抜粋)

『どうぶつがすき』

二冊目は『どうぶつがすき』である。この絵本は、女性動物行動学者のジェーン・グドールさんの少女時代を、コミック風の水彩画で表現した絵本である。

少女時代のジェーンは、何をするときでもチンパンジーのぬいぐるみジュビリーを手から離したことがなかった。動物たちがいる森が好きで、原生林で暮らすターザンにあこがれ、ひとりで森の木の上に腰をかけて、ターザンの本を読んでいた。母親は、それをあたたかく見守っていた。
大人になったら、アフリカに住んで、たくさんの動物たちと仲良くなって、困っている動物がいたら、助けてあげたいと、毎晩お祈りをしてジュビリーと一緒に寝る。(抜粋)

そして、大人になるとこの少女の夢は現実になる。

『よつごのりす はるくんのおすもう』

三冊目は『よつごのりす はるくんのおすもう』である。この本は、脳科学者で写真家の西村豊さんが撮影した四つ子のリスの写真をもとにしている。

特に、はるくんとなっちゃんの二匹の子りすに焦点をあて、二匹がじゃれ合う姿をおすもうに見たてて、コミック風にそれぞれセリフを吹き出しに書き込んで、ストーリーを創りあげている。(抜粋)

『エゾリス』

そして四冊目は、写真家・竹田津実さんの「北国からの動物記」の一冊『エゾリス』である。

竹田津さんの家にやってきては窓からなかをのぞき見る、アカキチと名づけられたエゾリスの四年間と最期の迎え方は感動的だ。(抜粋)

この章の最後に柳田邦男は、就寝前に日々の雑事を忘れてこのような動物写真絵本読むことは絶対おすすめである、と言っている。


関連図書:
ハンス・リマー(文)、レナート・オスペック(写真)、松岡享子(訳)『わたしのろば ベンジャミン』、こぐま社、1994年
パトリック・マクドネル(作)、なかがわちひろ(訳)『どうぶつがすき』、あすなろ書房、2011年
西村豊(著)『よつごのりす はるくんのおすもう』、アリス館、2015年
竹田津実(著)『エゾリス』、アリス館、2015年

冬でも生きている小さないのち

栃木県の小さな町で育った著者・柳田邦男は、豊かな自然の中で育った。そして、今でも動植物や天文・気象などの絵本や図鑑を楽しんでいる。そんな少年時代を過ごした著者ならではの、絵本としてここでは、冬の昆虫の本を三冊紹介している。

『ふゆのむしとり?!』

一冊目は『ふゆのむしとり』である。子ども時代に昆虫採集をして遊んでいた著者も冬に虫取りをするなんて考えても見なかったと言っている。

主人公は小学校五~六年生のお兄ちゃんと一年生くらいの弟である。ある日お兄ちゃんが、寒い日なのに虫取り網を持って出かけようとしている。弟は、びっくりしながらもお兄ちゃんについて行く。

外に出るとすぐに、お兄ちゃんは道端のプランターの葉の裏に小さなハチ(ヒラタアブ)を見つける。そして、飛んできたマルハアバチを網で捕まえた。大きな木の幹に「コナラ」と書いてある木の板があると、それをめくり、多くのテントウムシが休んでいるのを見つける。

こうして冬枯れの林でも、実は様々な小さな生きものたちがいのちの営みをしているのが、楽しく語られていく。気がつけば、冬の日射しの穏やかな日には、公園や林に出かけてみようかなという気持ちになっている。(抜粋)

『雪虫』

二冊目は『雪虫』である。この絵本は福音館書店の月刊「たくさんのふしぎ」の中の一冊で、冬が近づいたころ、綿毛のようにふわふわと空中に舞う雪虫(学術名:トドノネオオワタムシ)を紹介している。

この絵本の主人公の雪虫だが、表紙をめくると、いきなり体長三~四ミリの雪虫のクローズアップ写真を見せられて、こんな形をしていたのかと、思わず凝視してしまう。翅はトンボに似た透明感のあるやや茶褐色がかった色で、からだは綿のように白いふわふわをまとっている。寒い日に、《あれ、雪が舞ってる》と錯覚する、あのふわふわと漂う雪虫の正体は、れっきとした生きものなのだと、あらためて気づかされる。(抜粋)

また、この絵本では雪虫のめまぐるしい形態の変化も紹介されている。

『ちいさな ちいさな – めにみえない びせいぶつの せかい』

三冊目は『ちいさな ちいさな – めにみえない びせいぶつの せかい』である。この絵本は、昆虫よりもさらに小さい微生物を取り扱っている。

死んだ動物や植物を土に還元し、新しいいのちを育む役割を果たすようになるなど、地球上のいのちの循環の大きな陰の力になっている微生物の世界について、この絵本でたどっていくと、いのちとは何かという根源的な問題について、新しい角度から考えるヒントをつかめるだろう。(抜粋)

関連図書:
はたこうしろう・奥山英治(作)、はたこうしろう(絵)『ふゆのむしとり?!』、はるぷ出版、2014年
石黒誠(文・写真)『雪虫』、福音館書店、2013年
ニコラ・デイビス(文)、エミリー・ザットン(絵)、越智典子(訳)、出川洋介(監修)『ちいさな ちいさな – めにみえない びせいぶつの せかい』、ゴブリン書房、2014年

コメント

タイトルとURLをコピーしました