生きものの眼差し、人間の眼差し / どうぶつが生きる、ひとが生きる
柳田邦男 『人生の一冊の絵本』より

Reading Journal 2nd

『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

生きものの眼差し、人間の眼差し

『ジャガーとのやくそく』

柳田邦男は、この『ジャガーとのやくそく』の絵本の真ん中あたりを開いたとき、目の飛び込んできた絵と言葉に感動したと言っている。

この絵本は、研究者である作者・アラン・ラビノヴィッツのジャングルでの活動を描いている。彼は、子どものころ吃音に悩み学校から帰ると部屋にこもって飼っているハムスター、スナネズミ、カメ、カメレオンなどの動物と過ごしていた。そして不思議なことに動物と話すときは、普通に言葉か出た。ある日、父親に連れられて動物園に行った。そして、年老いたジャガーとある約束をする。

少年は大学行って専門的な指導のもと吃音を克服する。そして、動物の研究者となった。その後、作者は絶滅の危機にあるジャガーを守るために、南米ベリーズの国の政府に訴えて、ジャガー保護区を設けることに貢献した。

この絵本で最も感動的なのは、ジャガー一頭一頭を足跡で識別できるようになっていたラビノヴィッツ氏が、ある日、見覚えのないジャガーの足跡を見つけたときのエピソードだ。
誰だろうと追っていくと、ハッとなった。振り向くと、すぐ後ろに大きなジャガーがいるではないか。
<あとを、つけられていたのは、ぼくのほうだったのだ!>
彼はその場にすわりこんで、ジャガーの目をじっと見つめた。ジャガーもおすわりの姿勢になり、力強い目で彼を見つめた。
<ジャガーの おもいが しっかりと つたわってきた。ぼくと ジャガーの きもちは、ひとつに なっていた>
彼は、ジャガーに顔を近づけて、幼き日に動物園でしていたように、小さな声で話しかけた。
<ありがとう>----と
幼き日に動物園で約束したことは、ジャガーを大自然のなかで、のびやかに生きられるようにしてあてるね----ということだったのだ。(抜粋)

関連図書:アラン・ラビノヴィッツ(作)、カティア・チェン(絵)、美馬しょうこ(訳)『ジャガーとのやくそく』、あかね書房、2015年

どうぶつが生きる、ひとが生きる

『コウノトリ よみがえる里山』

以前、柳田邦男が兵庫県の豊岡市に講演に行ったとき、「せっかく豊岡に来たのだから」と主催者が一度絶滅したコウノトリを復活させようとしている飼育場を案内してくれた。

コウノトリは一九七一年に豊岡に生息していた最後の一羽が亡くなり日本の空からいなくなっていた。そして一九八五年にロシアから譲り受けた六羽のコウノトリから繁殖に成功し、自然界へと返すこころみを行っている。

コウノトリが自然界で暮らせるようにするには、環境の整備が重要である。田畑で出来るだけ農薬を使わないようにして、田んぼや湿地、小川などに、餌となるカエル、ゲンゴロウ、ヘビ、ドジョウ、フナ、イナゴなどがたくさん生息することなどが必要である。そこで豊岡の人たちは一丸となって改革に取り組んでいった。

『コウノトリ よみがえる里山』は、このコウノトリの再生の物語を、豊岡の農村地帯と自然と人々の変化を背景に地域の人たちが記録してきた写真で構成された写真絵本である。

そうした様々な情景をとらえた写真を見ていると、人間は経済成長のために自然界を破壊してきたが、農耕のあり方やライフスタイルを変えることで、自然界の生きものたちと共棲関係を取り戻せるし、生きものたちが生息できるように環境を修復したり守ったりすることで、実は人間自身がこころの豊かな生き方を取り戻せるのだということを実感できるのだ。すばらしい学びの写真絵本と言えるだろう。(抜粋)

『ぞうのなみだ ひとのなみだ』

絶滅危惧種の保護は、世界的に大きな問題になっている。『ぞうのなみだ ひとのなみだ』は、そんな絶滅危惧種の一つのゾウの悲劇をとらえた一冊である。この写真絵本では、森で暮らすゾウたちの日常を多彩に捉えている。

ふだんは森で暮らしているゾウも、ときおり人里にやってきて農作物を食べることがある。村民たちはそれを放置できずに銃を構えることになる。

悲劇は藤原さんの目の前で起こった。お母さんゾウとまだ乳離れしていない幼いゾウが森から出てきて、稲を食べ始めた。農民たちは追い払おうとしたが、ゾウは逃げない。若者が銃を構えて撃った。お母さんゾウはバッタリと倒れ、驚いた子ゾウは森に逃げこむ。カメラは孤児になった子ゾウのさ迷い歩く姿を追う。藤原さんが現場に戻ると、口から血を流して息絶えているお母さんゾウがいて、その前に小さな女の子がひざまずき、涙を流して手をゾウの鼻にあてて祈っている。(抜粋)

『返そう 赤ちゃんゴリラをお母さんに』

柳田は、動物からいのちや生きることを学べる絵本をもう一冊紹介している。
『返そう 赤ちゃんゴリラをお母さんに』は、京都市の動物園で、死に瀕したゴリラの赤ちゃんを一年間人工飼育して母親ゴリラに返したら、母親はしっかり覚えていて愛情深く抱きしめたという感動的なドキュメントである。


関連図書:
宮垣均(文)、兵庫県豊岡市の人々(写真)『コウノトリ よみがえる里山』、小峰書店、2014年
藤原幸一(文・写真)『ぞうのなみだ ひとのなみだ』、アリス館、2015年
あんずゆき(文)『返そう 赤ちゃんゴリラをお母さんに』、文渓堂、2013年

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