最近10年でヒットした展覧会を振り返る — 美術鑑賞の変遷(その1)
ちいさな美術館の学芸員 『忙しい人のための美術館の歩き方』より

Reading Journal 2nd

『忙しい人のための美術館の歩き方』 ちいさな美術館の学芸員 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

第2章 美術鑑賞の変遷 1 最近10年でヒットした展覧会を振り返る

今日から「第2章 美術鑑賞の変遷」である。これまで「第1章 タイパの真逆にある美術館」では、時間の余裕があっても美術館に足が向かない、特に現役世代にその傾向があることを考察し、その根底にはタイパ・コスパという現代の風潮があるとした。そして、反対に普段から美術館に行く人には、美術をビジネスに生かすなどの発想が無いことが解った。

第2章では、受け入れる側の美術館の変遷についてである。今日のところは、最近10年でヒットした美術展を振り返り、どのような美術展が人を美術館に向かわせるのかを考察している。それでは読み始めよう。

最近10年の展覧会入場者数ベスト5

最近10年の展覧会入場者数ベスト5(小見出し)

普段は、美術館に行かない人に足を運ばせるには、どのようなことが必要であるかを探るため、著者は、ここ10年間(2014年~2023年)の展覧会「入館者数ベスト5」の表を示している。ここでは、入館者数を総入館者数ではなく、一日当たりの入館者数で比較している。それは、総入館者数では、会期が長い展覧会が有利となるためである。

コロナ禍の前後での違い

ここで分析を始める前に、コロナ禍前後での美術館の状況についての説明がある。日本では、2020年から2021年ごろをピークに新型コロナが流行した。美術館は一斉に臨時休館となり、緊急事態宣言がされた後は、三密を避けるために、入館人数を絞ったり、関連イベント中止したりした。そのため入館者数のランキング表を見ると、2020年、2021年はがっくりと入館者が減っている。しかし、コロナが終わった2022年以降を見ても、2019年の入館者数には全く届かない。

それは、美術館の受け入れ側の体制の変化もある。コロナ禍の時に美術館では、オンラインによる事前予約や日時指定を行った。そのシステムは今も継続して使われていて、以前のように行列を作って美術館に行くのではなく、事前に予約をして美術館に行くことがだいぶ浸透した。

そのため、鑑賞者は列に並ぶ必要が無くなり、展示室の中もある程度余裕をもって鑑賞することが出来る。その反面、美術館としては入館料収入が減り、新たな手段で収益を上げる必要が出てきている。

ヒットした展覧会の共通項

レアなもの 「正倉院展」

一つ目は「希少性」である。ヒットした展覧会の表では、「正倉院展」が10年間ほとんど1位か2位に入っている。これは、やはり「希少性」のあるものを見たいという人間の欲望を物語っている。この「正倉院展」開催時には、奈良国立博物館前に長蛇の列ができ、それが風物詩の一つとなっている。ただし、会期が短いため、総入館者数でみると10位にも入っていない。

「正倉院展」は毎年定期的に開催されますが、一度展示公開された宝物が再び登場するのは何十年か後ということがあります。生きているうちにもう二度と見られないという可能性もあるという希少性が、人を強く惹[ひ]きつけるのです。(抜粋)

海外への憧れ 「有名美術館コレクション展」

海外からやって来た展覧会も数多くベスト5にランクインしている。特に欧米の有名美術館のコレクション展は、その名前だけでも多くの集客が望める。しかし、このような展覧会は、国内展と比べようもないほど時間と労力と費用がかかる。そのため多くの場合、新聞社が共催に入っている。このようにハードルが高いが、来館者数という数字では、大きな見返りがある。

ただ、悲しいかな日本の経済力低下が顕著なので、ありし日のような海外の超有名作品を持ってくることは叶わなくなりつつあります。今後は海外展の内容や頻度は変わっていかざるを得ないでしょう。(抜粋)

定番コンテンツ 

定番コンテンツも安定感がある。これは、作家(モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴッホ、フェルメール、ピカソ、雪舟せっしゅう、北斎)の場合もあればジャンル(印象派、琳派りんぱ、国宝)の場合もある。ここ二十年ほどで、縄文美術や伊藤若冲などが新定番となりつつある。

このような展覧会は、身に行く方も展覧会の内容がある程度わかるので、安心して見にいくことができる。を取っている。

大ヒットしない展覧会の意味

最後に、大ヒットはしていない展覧会について触れている。

「現代アート」「明治以降の近現代の日本美術」「ヨーロッパ、中国、南米以外の地域の美術」、これらはどんなに内容が良くても集客的には大ヒットすることはない

もちろんいうまでも無く、来館者数だけが展覧会の良し悪しの基準ではありません。(抜粋)

ヒットのツボを押さえた展覧会は、費用もかかり国立公立の主要美術館、ごく一部の大手私立美術館に限られてしまう。そしてそれ以外の全国の中小規模の美術館は、独自の切り口、マイナーなテーマ、未開拓のジャンル、知られざる作家などの展覧会を果敢に行っている。その結果、人々が多様な美術を楽しめるという高い文化水準が維持できているのである。

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