『陰翳礼讃・文章読本』 谷崎 潤一郎 著、新潮社(新潮文庫)、2016年
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
『陰翳礼讃・文章読本』
谷崎潤一郎の『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄』を読んだ。今まで読んだことが無かったけど、谷崎潤一郎、なかなかいいですよね。
谷崎潤一郎というと、そういえば録りためた録画の中に、NHKの『陰翳礼讃』の特集があったな、と思い出した。ならば、それを見てから『陰翳礼讃』を読むのもいいかなと思って、この本『陰翳礼讃・文章読本』を手に入れてみた。
ただ、ちょっと困ったことに、これまで
- 「読書日誌」:日々、読んだところをまとめてUPする
- 「レビュー」:まとめるという本ではない場合は、1冊ごと本の感想をUPする
という、二つに分けていたんだけども、この本の『陰翳礼讃』などのエッセー部は、レビューですが、『文章読本』は、まとめないとなぁ~。そこで、ちょっと変則ですが、前半の『陰翳礼讃』他を「レビュー」枠で、『文章読本』を「読書日誌」枠として扱うことにしました。
それでは、読み始めよう。 あ・・・・・その前にNHKの録画を見ようね♬
『陰翳礼讃』
まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。(抜粋)
陰翳礼賛は、このような有名なフレーズで終わっている。谷崎潤一郎は、この中で、日本の美は暗さとその陰翳にあるとした。様々な日本の美を、このような視点から解き明かし、西洋化されていく日本にこのような美が失われていくことを危惧している。そして一つの比較文化論というものといってもよいだろう。
最初、日本家屋を建てる場合に、西洋からの暖房や衛生、電灯などの配置に頭を悩ませるという話から導入されるのだが、次にいきなり厠の話になり、少し意表を突かれた。この厠については、この本にも「厠のいろいろ」というエッセーが収録されているように、谷崎の得意の話題であるようだ。
谷崎は、薄暗い日本家屋と障子などを通した柔らかな光、そしてそれが生み出す陰翳が日本の美の特徴であると言っている。それは厠にはじまり、煤けた錫製の食器、そして漆器の美に至る。漆器も赤いのや黒いのなどあるが、あれは薄暗いところにおいて始めて本当の美となる。この陰翳が無ければ深みもないのである。そしてそれに盛られた料理や椀物などの美もやはり薄暗い部屋で深みのある漆器に盛られてより一層輝くのである。谷崎は、漱石が「草枕」で羊羹の色を賛美していたが、それもやはり漆器の器にもり、深い闇に鎮めると、ひとしを瞑想的になると言っている。
かく考えて来ると、われわれの料理は常に陰翳を基調とし、闇と云うものと切っても切れない関係にあることを知るのである。(抜粋)
この陰翳の美は、日本家屋の作りにも影響する。日本家屋は、大きな屋根、その庇が作り出す広い闇の中に全体を取り込み、薄暗い陰翳の中に家造りをする。そして日本座敷の美はこの陰翳の濃淡の中に生まれる。
われわれは、それでなくても太陽の光線の這入りにくい座敷の外側へ、土庇を出したり縁側を附けたりして一層日光を遠のける。そして室内へは、庭からの反射が障子を透かしてほの明るく忍び込むようにする。われわれの座敷の美の要素は、この間接の鈍い光線に外ならない。われわれは、この力のない、わびしい、果敢ない光線が、しんみり落ち着いて座敷の奥へ沁み込むように、わざと調子の弱い色の砂壁を塗る。(抜粋)
同じように床の間も暗い陰翳の中で掛け軸などの調度品を含めて映えるのである。
諸君はまたそう云う大きな建物の、奥の奥の部屋へ行くと、もう全く外の光が届かなくなった暗がりの中にある金襖や金屏風が、幾間を隔てた遠い遠い庭の明りの穂先を捉えて、ぼうっと夢のように照り返しているのを見たことはないか。(抜粋)
谷崎は、暗い部屋の中にレフレクターのように光る金の美しさに言及している。このような黄金の美しさは、現代の明るい家に住んでいる人には思いもよらないものだった。同じように派手な能衣装なども、暗い光の中で見ることを前提にして作られている。能だけでなく人形浄瑠璃などの美も物体と物体の作り出す陰翳のあや、明暗により引き立つのである。
『厠のいろいろ』、『文房具漫談』、『岡本にて』
このあと、『厠いろいろ』、『文房具漫談』、『岡本にて』と3つのエッセーが続く。
『陰翳礼賛』でも、厠について語っているが『厠いろいろ』では、それまでに谷崎が出会った厠について、その美を含め語られている。
『文房具漫談』では、谷崎が原稿の執筆時に、万年筆を使わずに、日本紙の場合は毛筆、西洋紙の場合は鉛筆を使っている理由が書かれている。毛筆の場合は、原稿用紙が無くなる事態にそなえ、日本紙のみ買っておいて、自分で刷っている、などその執筆の日常を覗かしている。
東京生まれの谷崎は、関東大震災をきっかけに、関西に移住する。そして岡本に住み着くのであるが、『岡本にて』では、その様子が描かれている。
関連図書:谷崎 潤一郎(著)『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄』 、(文春文庫・現代日本文学館)、2021年
目次
陰翳礼讃 [第1回]
厠のいろいろ
文房具漫談
岡本にて
文章読本
一 文章とは何か
言語と文章 [第2回]
実用的は文章と芸術的な文章 [第3回]
現代文と古典文 [第4回][第5回]
西洋の文章と日本の文章
二 文章上達法
文法に囚われないこと
感覚を研くこと
三 文章の要素
文章の要素に六つあること
用語について
調子について
文体について
体裁について
品詞について
含蓄について
解説 筒井康隆
年譜


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