[再掲載]「作者素描」2
内藤 濯 『星の王子とわたし』より

Reading Journal 1st

「星の王子とわたし」 内藤 濯 著
[Reading Journal 1st:再掲載]
(初出:2007-03-05)

作者素描 ブエノス・アイレスでのできごと

アルゼンチン航空会社の指揮をすることになり、サン・テグジュぺリはブエノスアイレスに行く。アルゼンチン航空郵便会社営業部長として彼は月々二万五千フランの手当てを受ける。金さえあれば勘定もせずにどしどし使うのが彼であった。

ある日夕食に招かれたとき、サン・テグジュぺリは、車いっぱいの花をもってやってきた。途中で花いっぱいの車を押している花売女にでくわしたことが、そうしたのだった。
サン・テグジュぺリは、いきなり花売女にむかって言った。
ーーーいくらだい、お前さんのその花?
ーーーどの花ですかい?
ーーーみんなさ。
ーーーこの花、みんなですかい?
ーーーそうだよ、車もいっしょだ。
あまりのことに驚いた花売女は、このフランス人、気がすこし変になっていはしないかと思った。しかしサン・テグジュぺリは、相手が驚きあきれているのを見てとって、ポケットから金をとりだして、札(さつ)をかぞえた。
ーーー十分あるだろうね、花は?
人のよい女には、分からないことなのである。よくよく考えて、どのくらいの花をもっているか、かぞえてみなければならないのである。ところで、車のねうちはどうだろう。どうにもこうにも、はっきりこうだとは分かりようがない。この車、新しくはない。嘘にも新しいとは言えないのである。サン・テグジュぺリは、そんなことどうでもいいといった顔で、なんでもなく花と車の代を払ったが、歩道のへりに取りのこされた花売女は、呆れてはいながら嬉しそうな顔をしていた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました